第9章 こぼれ話(お魚編)

ひとりで産卵イワサキスズメ

1995年の盛夏、いつものように潮だまりを覗いていた私は、ちょうど座布団サイズの岩の下に、肌色のような銀色のような、普段見たこともないスズメダイを発見いたしました。ジリジリと照りつける太陽の下、小一時間ほど格闘して、やっとこさ捕まえたそれは2cmほどの「イワサキスズメダイ」というスズメダイの仲間でした。私ときたら、このテの珍しい魚が大好きですから、大事に大事に途中何度も無事を確かめながら連れて帰ったのは言うまでもありません。

それは図鑑にもあまり載ってない魚なので、若干の説明を致しますと、身体の色は前半が淡い緑色で後半が白の、派手さはないもののシンプルな美しさを持ったスズメダイです。最も特徴的な部分が「眼」で、眼球の中央を黒い線が横切っています。正面から見ていると、何だかコチラが睨まれているような変な感じがしてしまいます。

さてこのイワサキスズメダイの飼育を始めて1年を過ぎた頃のことでした。何だかいつもと違って、ソワソワとする様子に尚もよく観察してみると、今度は飾り岩にお尻をくっつける仕種を繰り返しています。と見ると、何とその岩肌には無数の小さなゴマのような小球がくっ付いていました。そうです、産卵をしていたのです。

そして何よりもビックリしたのが、「そこにはイワサキスズメダイしか居ない」という事実なのです。これはどういうことなのでしょう?ペアならまだしも理解ができるのですが……

ウーム、不思議である。果たして、メスだけで産卵することってあるのでしょうか?


目に黒い線がある。睨まれている感じ。淡い色合いのスズメ。



イソギンチャク、タベマスカ?

高校2年生の頃だったか、生物部の野外活動でM半島のA海岸という磯へ行ったことがあります。

その日はまだ採集シーズンではなかったこともあって、私たちもハナから魚を追いかけるということはせず、もっぱらヤドカリやイソスジエビ、それとミドリイソギンチャクなどを採集しておりました。

シーズン前とはいっても磯には結構沢山の人が出ていて、皆同じようにあっちこっちのタイドプールで遊んでいるのが目に付きます。すると私は、その中に外国人のグループがあって、こちらの様子をジッと伺っているのに気がつきました。そして彼らには私達の行動が奇異に見えたのでしょう、私達が場所を変えても少し距離をおいたまま、ゾロゾロと付いて来始めたのでした。

「おい、どうする?」
私は何だか恥ずかしくなったのと、少し気味が悪くなって来たこともあって、A君にそう相談してみました。すると彼は、
「ほっとけ、ほっとけ」
と、全く気にする様子もありません。私も、そのうちに付いてこなくなるだろうと思い、そのまま採集活動を続けることにしました。

ところがそれから暫くして、彼らのうちの一人の女性が近寄って来て、出しぬけに私達に質問をしたのです。
「ソレ、タベマスカ?」

最初、私は何を聞かれたのかと、
「???」
ってな感じだったのですが、彼女の視線を追って行くと、私の手に握られたバケツの中のミドリイソギンチャクにたどりつきました。そこで私は初めて気がつきました。
(そうか!この人たちは私が食べるためのイソギンチャクを採っていると思ったんだ!)
すると私はとたんに恥ずかしくなって、バケツからイソギンチャクを取り出して、何食わぬ顔でそれをタイド・プールに戻してしまいました。なぜかというと、日本人はイソギンチャクを常食にしているとは思われたくなかったからです。よく分からないけど、とにかくそう思ったのです。

それを見た彼女たちは、納得したような顔をして、やっと私達のそばから離れて行きました。きっと彼らはこう思ったのでしょう。
「アア良カッタ。アンナモン、人間ガ食ウモンジャナイヨネ!」

私がまだ純真だったころのお話しでした。

今じゃ何て答えるでしょうかね?
「イエス、そうだよん。有明あたりじゃ味噌汁の具だよん。」
てなとこでしょうか?


やっぱり味噌汁みたいにして食べるのだ
と思ったのだろうか?

調和水槽?

大学生の頃に採集したサザナミヤッコは、体長約2.5センチのまことに可愛らしいサイズでした。採集場所から大事に大事に連れて帰り、迷うことなく単独飼育のVIP待遇でお迎えしたのは言うまでもないことです。

(コイツだけは何とか長生きさせてみせる!)
私はそう心に誓って、観察も念入りに行いました。授業中もこの子のことが頭から離れず、とにかく学校が終わると一目散に自宅へ帰ってきたものです。

ところがこの子、大変な臆病者で、なかなか餌付いてくれません。あれこれと餌の種類も変えてみたのですが、どうもウマク行きません。そうなると、
「このまま食べないでいると、痩せて死んでしまうのじゃないだろうか?」
とか、
「なんだか元気がなさそうだな?」
なんて、考え方もマイナス指向になってきます。

しばらくのうちはそんな心配ばかりしていたのですが、観察を続けてみるとお腹のあたりがへこんでいる様子もなし、また特に不調な顔つきでもありません。で、さらに様子を見ている大変に面白いことに気がつきました。それは次のようなことでした。

水槽はプラスチック・バットで、窓際のよく日の当たる場所に置いていたのですが、その側面に無数の虫のようなものが蠢いていて、かのサザナミ君は一生懸命それをつついていたのです。さらによく見ると、ちいさなエビのようなものもいて、やっぱりそれも啄ばんでいるのです。これらの正体は、コぺポーダやヨコエビなのですが、水槽内で自然発生して格好の生き餌になっていたというわけなのですね。

そして驚くべきことに、この水槽には、なんの濾過装置も、エアレーションも施していなかったのです。(実はこれ、意図してそうしたわけではなく、壊れてたんです。)

で、結局彼は、餌なし、濾過なし、保温なし、水替えなしで一冬を越してしまいました。

これは所謂「調和水槽」というヤツだったんでしょう。

窓際においたことで、
・最低水温が維持でき
・いろんな虫が湧き、それを餌とし
・側面に発生した緑藻をついでに食べて
たことが、生命の維持につながったのだと思います。

それにしても生命力の強さには驚くべきものがありますね。


リーフタンクではバランスドアクアリウムだなんだと
喧しいが、調和水槽は昔からあったのだ。
このサザナミは餌やりなどほとんどしないで、
一冬を越した。


ああ無情

私は「チョウチョウウオ」とか「ヤッコ」の類も好きなのですが、違う意味で好きな魚がいます。それはスズメダイの仲間で、とくにメタリックな輝きをもつスズメダイを見ると異常なほどに興奮してしまいます。

メタリックな輝きを放つスズメダイで、私たちが容易に捕らえることのできるものとしてはソラスズメがもっともポピュラーですが、チョイと目を凝らすと、もっともっとたくさんのスズメダイにお目にかかれます。例えば「ミヤコキセン」、「ネズスズメ」などが挙げられます。メタリックではないけれど、「ハクセンスズメ」や「シコクスズメ」、「セダカスズメ」なども味のあるスズメダイです。

私がもっとも感動したのが「メガネスズメダイ」です。これはもう海の宝石と呼んでも良いくらい美しい魚で、数年前に採集したときは網を掴んでいた手も震えたほどでした。
「これだから魚採りはヤメラレナイ!」
と思わず呟いてしまいましたが、独り言が急に恥ずかしくなって、
「誰か聞いてたかな?」
なんて、キョロキョロしたのを憶えています。

さてそのメガネスズメダイですが、同じ日に採集した他の魚とは別格の扱いで輸送し、お家に着いてからも、前々からスタートしていた水槽に単独でお迎えしてまったく万全の態勢で飼育を始めました。

真っ赤な魚体に白い尾。目を走るコバルト色のラインがとても素敵で、私は会社から帰ると、居間である2階には上がらず、玄関に置いてあったその水槽の前で30分くらいは過ごすのでした。

ところがある朝、餌を与えようとすると、いつもはピューンと岩陰から飛んでくる彼が出てきません。水質が悪いわけではなく、昨日の夜までは元気でいました。水温も変化はありませんいったいどうしたのでしょう?

と、足元をみると何やら魚らしきものが横たわっているのに気が付きました。ガーン、そうです、メガネスズメでした!とっくに干物になってます……。その数日に限って、水槽の蓋をしていなかったのです。

そのときの私の気持ち、分かりますか?ショックなんてもんじゃありません。 がっくりと肩を落として出勤したのはもちろんですが、3日はご飯がおいしくなかったですね。

それ以来、私は同じ磯の同じ場所を覗いてみるたびに、
「も一度会えないかなぁ?」
と思うのです。

今年は会えるかな?

それとも会いに行こうかしら

「メガネ」の由来?

95年だったか96年だったかに採集したメガネスズメは事故で亡くなった。「もう一度逢いたい!」と思っていたら、98年夏に、先にMさんが捕まえてしまった。「もう逢えないのかなぁ?」と諦めていたら、その1ヶ月後に採集できた。この時は、もう死ぬ程うれしかった。

イラストにしてみようと書き始めたところ、面白いことに気が付いた。それは名前の由来だ。この魚は目の部分にコバルト・ブルーの線が走っているが、これがメガネのフレームに見えたのだ。つまり、眼をレンズに見立てると、青い線がフレーム(つる)になるわけだ。

命名者もきっとそう思ったのに違いないと納得した次第。



5ミリのクマノミ

学生時代に採集したクマノミの話をしましょう。

某磯に、白や茶色の、でもポリプの先端はピンク色をしたイソギンチャクの畑があります。それこそ一面イソギンチャクだらけ。潮の動きで右に左にポリプをなびかせる様は、
「まったく圧巻!」
というような場所です。
もう何十年も訪れていませんが…

その磯の、潮が引くと腰くらいの深さの場所で採集をしていると、黒くて小さな魚がイソギンチャクのポリプの間に見え隠れしていました。寄せては引く潮の流れに逆らいながら、よおく目を凝らしてみると、大きな目がクリクリとした、小さな小さなクマノミでした!この頃のクマノミって、黒いんですね。大きさはそれこそ5ミリくらい。私たちはその頃、サランの防虫ネットで作った網を使っていたのですが、もうちょっと大きな網目だと逃げてしまうのではないかと思うようなサイズです。これを連れて帰ろうとしたのは言うまでもありません。私はそーっと網を近づけて簡単に掬い、携帯イケスの中に入れました。

さて中継場所のバケツに入れて、改めて観察してみると、まぁその小ささといったら!とにかく可愛らしいんです。でも泳ぐ様子は親と同じ。例のクネクネ泳ぎです。私は時の経つのも忘れて、日が暮れるまでじっと見詰めていました。

しかしこのクマノミ、家に連れて帰ることは出来ませんでした。輸送の途中で、他の魚に食べられてしまったらしいのです。悔しかったの何の!

私は輸送中の酸素欠乏のことばかり気になって、食べられてしまうであろう危険性など、微塵も考えていなかったのでした。まったく大馬鹿でした。「酸素や保温など輸送のことなら何でも任せなさい」の今なら考えられないようなミスです。

中には、
「何でそんな小さな個体を連れて帰るの?そんなに可愛らしく思うなら、そのまま放っておけばいいのに!」
とお怒りのムキもあるでしょう。

でもそんなことできません。それが私のビョーキなのですからね。


とにかく可愛かったのだ!!

タイド・プールのツノダシ

ツノダシという魚は、私の経験では、防波堤や岸壁にくっついていることが多いように思います。私の採集スタイルは、ガバッと潜って採るというタイプではないので、この魚を採集するということはあまりありません。また海でよく見かけるサイズも、小型水槽には向いてないものが多いので、わざわざエネルギーを使ってまでして採集しようという気が起こらないのも事実です。

でもこれが腰の深さくらいのタイド・プールだったら話は別です。私が玉網1本で採集したツノダシもそんなところにいました。

ジリジリと太陽の照りつける中、お昼も食べずに磯を徘徊していた私の目に飛び込んできたのは、1ヶ所が外海とつながったタイド・プールの中のツノダシの姿でした。背中から伸びるトゲで、すぐにそれと分かります。

「きっと仲間からはぐれて、迷い込んだに違いない!こんなチャンスはめったにないゾ!」
とはやる心を押さえつつ、グッと腰をかがめて、追い込みにかかります。一緒にいたA君の姿は見当たりません。一人でやるしかないと覚悟した私は、気合を入れて徐々に間隔を詰めて行きます。ツノダシはまだ私のことに気が付いていません。せっせと岩肌をつついています。間隔が2mくらいに狭まったとき、私の存在に気が付いたツノダシは、脱兎のごとく逃げ出しました。早い早い!でも出口は一つです。私は妙に落ち着いていました。しかし困ったことがありました。というのも、そのタイド・プールはゴロタ石が多くて、玉網1本の私には全く不利な場所だったのです。

結局、アッチへ追いかけ、コッチに追いつめ、見失ったらちょっと休憩・・・で格闘すること40分。やっとのことで網に入れた時、私はすっかりくたびれ果ててしまいました。でもこの満足感!これはこの楽しみを知っている人しか分かりません。

生憎と携行イケスが手元になく、ゴロタ石の上をぴょんぴょん飛び跳ねながら、落とさぬよう落とさぬようバケツのある場所まで運んだことをとてもよく憶えています。

今から30年も昔のお話でした。


タイドプールには滅多にいない。

爪楊枝サヨリちゃん

仲間といっしょにM半島の某磯に出かけた時のことです。季節は初夏、まだイシダイやアミメハギ、ナベカやシマハゼ、オヤビッチャやシマスズメ、ヤナギベラやキュウセンベラを、必死になって追いかけていた、採集を始めたばかりの頃の話です。

えっちら、おっちら電車とバスを乗り継いで着いた先は、当時の私のメインのフィールドです。

バス停から神社の参道そして境内を抜けて、トントンと石段を降りると、目指す採集場所が広がっています。

身支度するのももどかしく、網を両手にタイド・プールへまっしぐら。あっち、コッチと魚を追いかけて、さてちょっと一休みというときでした。私は波打ち際に爪楊枝のようなものが浮いているのを見つけました。

こういう時って意外とピンとくるものがあって、これはカンというヤツでしょうか、ジッと観察していると、突然クネクネと動き出しました。ハリガネムシという昆虫がいますが、ちょうどそんな太さの棒のようなものが動き出したので私も吃驚。もっと驚いたのが私自身の行動でした。とっさに私の右手が動き、チョイッと掬い採ってしまったのです。ちょうどネコがそうして獲物を捕まえるように…

さてこれを手に持っていたバケツに入れて、シゲシゲと見てみると、ちょっと銀を帯びた緑色のサヨリでした。 下あごが突き出ていて、まごうことなき「サヨリ」。ツマヨウジ大です。

普段魚屋さんで見かけるような魚種も、これくらいのサイズですと、まったく可愛らしくて、持って帰って食べようなんて気持ちはカケラもありません(ちょっとはあったかな?)。頭にあるのは、どうやって飼育するか?です。

ところがです。そんな私の思いも一瞬でした。さっき捕まえたばかりのイシダイがパックリ。あっと言う間もなく、彼の胃袋の中に収まってしまったのです。

せっかく「吉永 サヨリ」なんて名前を付けて可愛がろうと思ってたのに…

サヨリ
学名を知ってますか?Hyporhamphus sajori です。
あはは、そのサンマ、いえ、マンマでしたね

私のおうちはカップ麺容器…ブリモドキ

「流れ藻」には沢山の魚が付きます。イシダイやイシガキダイの稚魚、アミモンガラにキヘリモンガラ、ツバメウオやマツダイもそうです。キハッソクも流れ藻に付きますね。シーズンになったら、防波堤や船着き場などを見て回ると面白いです。ちょっと長めの玉網を持って行きましょう。きっと珍しい魚を採集できることでしょう。

私が大学生の頃のお話です。

相棒のA君と採集に行き、さんざん磯をほっつきまわり、ヘトヘトになって民宿に帰ってきたあと、獲物のための水汲みに行ったときのことでした。

民宿の近くには小さな漁港があって、そこへ空のバケツを下げて行ったのです。西日の当たった水面が黄金色に反射して、それでなくても塩水でショボショボした目がいっそう痛く感じたことを憶えています。

さて、急な斜面を二人して、
「今日は沢山採れたね!」
とか、
「明日はどんなのが採れるだろうか?」
なんて話しをしていると、A君が、
「???」
というような顔つきをしました。

こういう時の彼の直感というのは、凄いものがあります。
私は彼の視線を追っかけてみました。視線の先の水面には底の抜けたカップ麺の容器がぷかぷかと浮いているのですが、A君の視線はそこで止まっています。当然私も目を凝らしてみました。するとどうでしょう!その容器の陰に、1尾の金色の魚が見え隠れしているのです!ブリモドキです。

大きさは、ちょうど3センチくらい。飼育にはもってこいのサイズです。ブリモドキをご存知ない方は、ショップでおなじみのコガネシマアジを想像なさると良いでしょう。あれを少し細目にした、スマートな魚です。

どうしたかって?こんなこともあろうかと持っていた玉網で、難なく容器ごと掬い取ることができました。私たちの息があえば、大抵の魚は逃げることができません。なんちゃって。それはともかく、流線形のとてもきれいな個体でした。

私がここで面白く感じたのは、流れ藻に付く魚は、それが流れ藻でなくても良いのだ、ということです。人工物だろうがなんだろうが、大海を生き抜く生物にはどうでも良いことなんですね。自分が身を寄せるものさえあれば、ということなんでしょう。

どうです。すばらしい教訓でしょう?ただノンベンダラリと水面を見ているだけでは面白くありません。
「アリ?ゴミかな?」
って思ったら、ハリセンボンの稚魚だった!なんて本当の話です。

今シーズン、あなたも「岸壁派」かな?

ブリモドキ
プカプカと、底の抜けたカップ麺の容器の中にいた。
黄金色に輝く、美しい魚だった。

サイコロ魚…ハコフグ

私が初めてハコフグを採集したのが、高校1年の時です。

6月のはじめ、まだ夜が明けきらないころに寝床を抜けて、前の晩に用意しておいたナップ・ザックを背負いこみ、両手には採集道具を下げて、歩いて20分もある最寄りの私鉄駅まで出かけます。

そこから電車で15分。ターミナル駅でA君と落ち合い、今度はT駅に向かいます。

さらにT駅から「各駅停車」に乗り、約2時間。やっとN駅に着きます。でもこれで終わりではありません。
今度はバスに乗ること約40分。やっと目的地に到着です。やれやれ、なんと3時間以上の長旅です。
(でもこれが全然苦にならなかった!若さだったのでしょうかね?)

狙いはハコフグ1本。岸からちょっとのところにイカダが浮かんでいて、そこまでは木の「渡し」がついています。まずそこへ渡っていって、ちょっと偵察。います、います、大きなハコフグが!でも、私たちはそんな大きなものが欲しいのではありません。ちっちゃな、ちっちゃな、ちょうどサイコロくらい…のが欲しいのです。

(いるらしいぞ!)
私たちはそう目配りすると、海水パンツに着替えて水に入ります。
あっちこっちと探すこと約20分。いました、いました。サイコロサイズのハコフグです。ユラユラと小刻みに揺れながら水面下30センチくらいのところに浮かんでいます。さっそく追いかけました。抵抗の大きそうな魚体なのに、けっこう素早く逃げます。ときどきこちらを振り返るような仕種をするのが、とても可愛らしく見えます。追いつめたら網の中へ……

この日は5,6尾を採集したでしょうか?大事に大事に持ちかえり、セパレータで仕切って飼ったものです。なにせ他の魚と一緒では、餌が回りません。当時私が使っていた生餌「イトメ」を与えると、まるでソバでもすするように食べるのが、とても滑稽に見えたものです。

しかし、小さなハコフグ類は難しいですね。イトメだけでは栄養不良。白点などにかかりやすい…。なんかもっとうまく飼える方法ないかしら?

6月・・・これは私がハコフグ採集を思い出す月なのでありました。


英名をトランクフィッシュとかボックスフィッシュというが、
言い得て妙だ。
スローイーターなのでガサツなやつと一緒に飼うと
餌が行き渡らず、痩せて死んじゃう。

口中虫に再会・・・また会いに来るよ

私が高校生の時分に採集したミノカサゴの口中には寄生虫がついていました。この寄生虫の正体は「タイノエ」という「虫」であるということは、つい最近になってインターネットの仲間から教えられたのですが、因縁というべきなのか、教えて頂いてから1週間ほど経ったある日に訪れた水族館で、私はなんとこのタイノエに再会してしまったのです。

若干の説明をいたしますと、タイノエというのは分類上「等脚類」の範疇に入り、姿かたちは、磯でよく見かける「フナムシ」そっくり。陸生のべんじょ虫とかダンゴ虫などにもよく似た、大きさ約1.5センチくらいの海生の寄生虫です。鯛の口の中に宿ることから「鯛の餌」変じてタイノエとなったというのがその名の由来であろうと思います。ウオノエ(魚の餌)とも呼ばれることがあるようです。

私が再会したタイノエは、白いプレートの上に、口を開いた鯛の頭部と並んで、次のような注釈文とともに張りつけられておりました。

「和名:アカレンコ
方言名:ベンコダイ
虫と暮らす魚……口の中にタイノエという虫が寄生している。」

さて、私にとっての御本体「タイノエ」の色は灰色、大きさは約1.5センチ。27,8年前の昔に対面したものと全く同じ姿かたちのものでした。私は懐かしさのあまり、5,6分ほども立ちつくしてしまいました。ちょうど閉館間際の薄暗い館内で、そこだけ光の斑が当たって、他には誰もいないような錯覚がしたものです。

しばらくした時、私の肩をポンとたたいたのはA君でした。
「何やってんだよぅ?」
放心したような、或は何かに熱中したような私の様子をおかしく思ったのでしょう。

我に帰った私は、昔の話を途中まで話すと、A君は、
「そういや、そんなこともあったっけかなぁ?」
と、なんてこともないさ風の顔つきでいます。彼はタイノエの標本に一蔑をくれただけで、さっさと先へ行ってしまいました。

そんな彼の対応にはすっかり慣れっこの私は、
「ちょっと待ってよ!」
と、あわてて注釈文をメモにとり、彼を追いかけました。

彼を追って外に出ると、西の彼方の水平線に日が落ちようとしていました。駐車場へと続く薄暮の道を歩きながら、さっきのタイノエのことを思い出していた私は、ここで重大なことに気がつきました!デジタルカメラを持っていながらタイノエの写真を撮るのをすっかり忘れていたのです!せっかくHPに載せようと思ってたのに・・・

でもまたこれで、この水族館に来れる理由ができました。今度会えるのは、半年後でしょう。ウオノエをご存じでない皆様、ちょっとの間「お預け」です。

ああ、それとA君!人が夢中になってる時に声をかけないでね。

そうそう、忘れてはいけませんね。タイノエを教えてくださったプアマリナさん、どうもありがとう!

98年12月のある日、以前タイノエの写真を撮り忘れた
某水族館を訪れた。
もちろん今度は撮るのを忘れなかった。そしてちゃんと収めてきた。
タイノエ
これが「口中虫」だ!

そこまでやる?

私には「とっておき」のタイド・プールが沢山あります。シマハギの幼魚を採ったプール、ホンソメワケベラの極小サイズを掬ったプール、採集を始めて最初にチョウチョを採ったプール・・・、数え上げたらキリがありません。私は採集に行くたびごとにそれらのプールを覗いて見ることにしています。

去年のある日、そんな中の一つのプールを覗いたときのことです。完全に潮が引くと、外海とは隔絶してしまうそのプールは、まったく私のお気に入りの場所です。影を落とさぬよう、そろりそろりと細心の注意を払って屈みこんでみましたが、これといった魚影は見当たりません。そういうことは良くあることで、私も最初は何とも思わなかったのですが、しばらくしてから妙な違和感に襲われるようになりました。
(何か変だな?)
そんな感じです。

(どうしてだろう?)
と、プールの水際で海水に両足を浸けて考えていると、背後に私とほとんど同じいでたちのおじさんが現れました。きっと採集家なのでしょうね。見ると私よりもズっと年季が入った雰囲気です。先輩と見て取った私は目で軽く挨拶をしました。するとそのおじさんもそれが分かったのか、同じように目で肯くと私の横に腰掛けました。

そして、会話が始まりました。

おじさん「何か居ましたか?」
私「いいえ、今日は駄目ですね。」
おじさん「そうですか…でももう、ずっと駄目かもしれません。」
(私はおじさんの言葉に、ビクっと反応しました。)
私「えっ!どういうことですか?」

おじさんは、淡々と続けました。
「ここのプールは、私も好きなんですよ。だからほとんど毎週覗きに来るんですがね。ところが先週のことです。磯に着いて、さて今日はどんな魚が入っているか見てみようとしたところ、もうすでに先客が来てる。見れば網も何も持ってない。冷やかしかもしれないから、もう少しあとに来てみようと思いました。でもやっぱり気になるので、その先客を観察していたら、まったく驚くような行動に出たのです。彼はあらかじめ用意してきたと思しき工事用の水中ポンプで、そのプールの水を汲み出し始めたのです。およそ30分もした頃、彼は水着も着けていない普段着のままそのプールに入って行き、しばらくすると道具を片付けて何食わぬ顔で帰って行きましたよ。」

おじさんはここで一息ついて、そして続けました。
「私が行って覗いてみたら、水なんてほとんどありませんでした。スッカラカンですよ。どうです?私が駄目だと言った理由が分かりましたか?」

もちろん私にはおじさんが言わんとすることは分かりました。私が経緯を述べてくれたことのお礼を言うと、おじさんは、
「またどこかで会うかもしれないですね。」
と言って、片手を上げて去って行きました。

この話は本当の話です。さて皆さんはどんな感想を持たれたでしょう?

そこには幾つかの考えるべき点があることに気が付きませんか?

先ず、
・「何もそこまでする必要はないのではないか?」ということ。
次に、
・「なるほど!そういう採集のやり方があったのか!」ということ。
そして、
・「そのタイド・プールはその後どうなったか?」ということ。
等ではないでしょうか?

私はその後も諦めきれずに、その磯に行くたびに、件のタイド・プールを覗き続けましたが、おじさんの言うとおり、そのシーズンはサッパリ駄目でした。で、今年はどうなんでしょうか?何だかそこを観察し続けることが私の役目のように思えてきました。

えっ?syunさん、その方法を試してみたいかって?いえいえそれは「私のやり方」ではありませんので。


お嬢ちゃんはチョウチョがお好き

数年前のシーズンはそこそこ豊漁で、くるぶし位や腰ほどの深さのタイド・プールでアケボノチョウチョウウオやシマハギ幼魚が採れたりと、私にとっては忘れられない年でありました。

ある採集日のこと、朝一番から磯を歩き回っていた私の携行イケスには沢山のチョウチョウウオが入っていました。数多く採集することが私の流儀ではないにしろ、条件反射とでも言うか、ついつい追い掛けて、網に入れてしまうのが悪いくせなのですね。ともかく、良い加減で小さなものはリリースして帰ろうと道具を片付けていると、幼稚園児らしき女の子連れのお父さんが私のそばにやってきて、イケスの中味を見せて欲しいと言ってきました。よくみると本人はもちろんのこと、女の子も、そこらの釣り具屋さんで売ってるようなカラフルな玉網と、これまたお譲ちゃん好みのキャラクターバケツを下げています。

もとより断る理由もなく、私は蓋をとって、中が良く見えるようイケスを傾けてあげました。半透明の外側からは魚らしきものがいる位しか分からなかったのでしょうが、中の魚を目の当たりにしたとき、この親子は相当にびっくりした様子です。女の子などは、
「お父さん!赤い魚がいるよ!」
と、小さく叫んだものでした。お父さんも、
「ほんとだ。チョウチョウウオの赤いのだね。」
と、相槌を打っています。
そしてお父さんは続けて私に言いました。
「娘を連れて、チョウチョウウオを採りに来たんですけど、さっぱり採れません。やっぱり深い方へ行かなきゃだめですかねぇ?」
私は、皆プールで採ったこと、丹念に探せば見つかるということを説明したのですが、どうもピンと来ない様子です。そりゃそうですよね。こればかりは経験を積まなきゃ、分かるものではありません。

さて私とお父さんとが話している間、女の子の方はというと、じっとイケスの中を覗き込んでいます。時折、自分のバケツに目を落しますが、そこには灰色や黒い魚がいるだけで、彼女の口からはため息ばかりがこぼれます。やがてお父さんが帰ろうと言い出し、女の子もなごり惜しそうに小さなお尻を上げたときです。私はとうとうこらえきれなくなって、その女の子に話しかけました。
「大事に飼ってくれるかしら?」

その時の彼女の顔を、私は今でもありありと思い浮かべることができます。その顔といったら、何とも表現のしようもない位にほころんで、今にも溶けてしまいそうでした。

私が自分のイケスの中から、少し大き目のチョウチョウウオを数尾選ってバケツに入れてあげると、もう彼女はうれしくてたまらないようでした。ちょっと小さ目を選ぼうものなら、黒目がちの瞳で、
「違う、違う!もっと大きいの!」
と訴えるのです。

私が5、6尾を入れてあげると、彼女はまったく満足したようです。お父さんは恐縮した様子ではありましたが、それよりも娘さんのうれしそうな顔を見ているほうが楽しいらしく、何度も何度も、
「良かったね。良かったね」
と頭を撫でているのでした。

さて、親子が手を繋いで帰って行くのを見送っていたときです。女の子が急に私を振り返って、初めて声を出して言いました。
「おじちゃん、ありがとう!」
(考えてみたら、私はそれまでお父さんとは会話をしていたものの、この女の子とは一言も口をきいていなかったことに気がつきました。)
私が軽く手を振ると、彼女もそれに応えます。そしてまた、
「おじちゃん、ありがとう!」
と繰り返しました。

(きっと、きっとうれしかったんだろうなあ!)
帰りの車の中でそう思うと、私はとても幸せな気分になったのです。


こんなバケツを下げてた女の子。元気でいるかしら?

標本

A君と私がやっていた「標本」作りの話しをしましょう。

いくら採集フリ−クの私たちでも、飼育したい魚のすべてを採集できるわけではありません。採れない魚を飼いたいときは、お小遣いを貯めてショップで購入することになります。幸い私たちが(今だから話しますが)授業をサボって入り浸っていたショップでは、何かと便宜をはかってくれて、時には珍しい魚を格安の値段で譲ってくれたりもしたものです。

そうは言っても、購入するのは数ヶ月に1度です。私たちはそれらの魚を少しでも長生きさせようと、なみなみならぬ決意で飼育に臨むのですが、そこは「生き物」のこと、思うように行かないことがあります。
死んでしまった魚を捨てるに忍びない私たちは、それを標本として残そうと考えました。

しかし、学校の理科で使うようなホルマリン漬けの標本は、私たちには作れません。そもそも、薬品の入手方法なんか知らないのですから。

そこで私たちがとった方法が「乾燥標本」です。作り方を知らない人のために簡単に紹介しますと、先ず道具として虫ピンを数本用意します。それから発泡スチロールの切れ端です。これだけあればOKです。あとは死んだ魚を発泡スチロールに乗せ、虫ピンでヒレを広げて発泡スチロールに刺して行きます。適当に刺して行って、最後に形を整え、これを天日で乾かすのです。(私たちは段ボールの切れ端を使ってましたが・・・)

まぁ、言ってみればミイラみたいなもんですが、お菓子の空き箱か何かに綿を敷きつめて並べてみると、これが立派な標本に見えるもので、私たちは大いに満足したものです。

ところがこの乾燥標本の作成にもいくつかの失敗談があって、先ず、天日に干してる間に猫が持ってっちゃいます。乾いたろうと思った頃に見に行ってみると、段ボールだけなんてのはしょっちゅうでした。当時私の家には「貫太郎」という賢い猫がおりましたが、こいつなんかはチョウチョウウオの半乾きを食っていたんだろうと思います。

次に生臭いということ。これには猫よりも私の母親の方が敏感で、匂いに感づかれてしまうと、すぐにポィされてしまいます。

もっとも困ったのが、ハエ、ゴキブリがたかること。これには閉口しました。実を言うと、私はゴキブリという奴が大嫌いで、姿を見るだけで卒倒してしまいそうになるのです。磯にいるフナムシは、たとえ手の上を這っても何とも思わないのですが・・・。とにかく大キライ!これが標本の上にいるのを見つけると、私は必ず叫び声をあげてしまい、これが母親の耳に届くと、母親はすっ飛んで来てゴキブリをやっつけてくれるのです。そこまでは良いのですが、
「生臭い!」だの、
「不潔!」
だのと怒られて、挙げ句には標本まで一緒に処分されてしまうのでアリマス。これが一番困りましたね。

そんなこんなの失敗があった中で、最高のヒット作がありました。それはタツノオトシゴの標本です。これはA君の労作(もしかしたらA君のお兄さんかもしれないですが)で、彼の水槽で生まれた稚魚を標本にしたものです。生まれてまもない頃から、ブラインシュリンプを口にするようになった頃までのものが、小さなものから大きなものまでズラリと並べてあるのです。

A君、この標本のことは忘れてしまったかも・・・。いや、きっと今でも取っておいてあると思います。今度機会があったら、チョイと拝借して私のHPに載せることにいたしましょう。どうぞお楽しみに。


採集家失格

数年前のシーズン終り頃、S先生直伝の採集場所へA君と出かけたときのことです。
前の晩の電話打ち合わせで、
「もう寒くなって来たし、明日は水に入るのやめようか?」
と尋ねる私に、
「ウン、明日は防波堤に専念しよう!」
A君はそう応えました。
翌朝早くにA君を迎えに行ったときの挨拶も、
「随分肌寒くなってきたね」
というような季節でした。

防波堤採集のための準備は万端。目指す採集場所に着き、岸壁のコーナーや、ちょっと「棚」になってる場所を覗き込んでいたA君がすっとん狂な声を上げました。
「げげげ、こんなところにミナミハタタテが!」
その声に私が駆けよってみると、白い背ヒレをひらひらさせた、まさしく「ミナミハタタテダイ」がそこにいました。まだ完全に潮が引いていないのに、深さ1m前後のところにです!大きさは4センチほど。飼育するにはもってこいのサイズでした。
(ちょいと手を伸ばせば捕まえることができるのではないか?)
そんな場所にいるのです。

実は私たちは、なめていました。予て用意の「I式折りたたみ岸壁網」があればたやすいものだと思ったのです。そうそう遠くに逃げるものではありませんし、現に同じところで姿を見せたり、隠したりを繰り返しているのです。

ところが網を組み立てて追い込みにかかってみると、これがなかなかうまく行きません。いる場所の「かたち」の問題もありましたし、網の形状も不利でした。またすぐ近くをゴンズイ玉がいて、それが邪魔をするのです。何度も何度も追い掛けても、もう少しのところでかわされてしまいます。

じれったくなった私は、すぐにでも飛び込みたい衝動に駆られたのですが、あることが頭に引っ掛かって、それができません。
(しまった!海パンを持ってきていなかった!)
そうです。そのことなのです。海パンさえあれば!

思いはA君も同じです。何ということでしょう。私たちは、こんな季節に珍しい魚なんかがいるわけないとタカをくくっていたというわけです。自分で言うのもおかしな話しですが、採集歴30年を越える大ベテランが、基本中の基本を忘れていたのです。

そこで私は考えました。ズボンを脱いで、ブリーフで水に入ろうかと。で、実際にチャックを降ろそうとしたとき、妙な恥ずかしさが頭の中を駆けぬけて行きました。
(水の中ではそれも良いかもしれないが、水から上がったとき、ポコチンが透けて見えたらどうしよう?)
私は大いにためらいました。A君はというと、口には出さないけれど、
「早くパンツで入ってくれ!」
と、目で訴えたりしています。でも周りを見ると、数人が釣り糸を垂れています。私はあきらめました。そんな恥ずかしい格好は嫌だったのです。

結局ミナミハタタテには逃げられてしまい、その日は何のお土産もなしに帰宅という有様でした。

それ以来、私の車のトランクには、1年を通して予備の海パンを入れています。今度はもう大丈夫にちがいありません…。かな?どうも自信がなくなってきた。

話は変わりますが、先日行われた某損害保険会社のアンケートに次のような項目がありました。
・あなたの車に必ず積んであるものは何ですか?
私はこの質問に、今度はためらうことなく、
・海パン、水中メガネ、シュノーケル、網
と書いたのでアリマス。

ミナミハタタテ
遠い南の島の話ではないのだ。こんな美しい魚が車で2,3時間の場所に居る!
日本は素晴らしい国だと思う。

ゴキブリの雨

私が学生の頃にショップでアルバイトをしていたことは、もうすでにお話しましたね。その頃のお話です。

当時の私の勤務時間は、朝の9時から夜の9時まで、ちょうど12時間でした。もちろん私はアルバイトの身分です。本業は勉強であったのですから(ほんとかね?)、毎日12時間を働くことは、月に数日といったところでした。それでも学生時代の後半は、ほとんどお店に出ていることが多かったように覚えています。

朝は先ず店の雨戸をはずして、倉庫まで運んで行きます。結構大きな店でしたから、雨戸だけでも10枚以上はあったでしょう。それから店の水槽のガラス拭き、魚の餌のアサリ割、小鳥の餌やりに水やり・・・などなどをこなします。

ここで一服をしていると、「イトメ屋」さんがやってきます。ビニール袋の中に入った大量のイトメをエンビのケースに空け、平らにならして、これでやっと店の準備ができます。私のバイト生活の1日はこうして始まるのでした。

それから後、なんやかやと雑用をこなしていると、やがてお昼になってしまうのですが、やっぱり朝早くから体を動かしていると、ひどくお腹が空くものです。11時ころにはもうお腹がグウグウ鳴ります。

さてこのショップは実は「賄」付きで、食事は社長の奥様が自ら作ってくださいました。この奥様がまた料理上手で、私はお昼ご飯の時間が待ち遠しくてならないのでした。特にカレーライスがおいしくて、朝、食堂の入り口にジャガイモが置いてあっただけで、
「うひゃ、今日はカレーだ!」
と、とてもうきうきした気分になったものです。

どうです?いいでしょ?ご飯はおいしい、好きな魚を見て働ける。なんて素晴らしい職場なのでしょう!
でもね。ひとつだけ困ったことがありました。それは、ゴキブリの雨が降ることでした・・・。どういうことかと申しますと・・・。

ショップというところは、店の中を一定の温度に保っています。夏はもちろんクーラー、冬は天井からぶら下げた巨大なガスストーブで。つまりゴキブリが1年中いる環境なのです。おまけに餌となるものは、商売柄ふんだんにあるワケです。これはもういくら環境衛生に気をつけていても、ゴキブリたちの侵入を防ぐことなんかできません。

不思議と多かったのがチャバネゴキブリです。ちょうど柿の種に足をくっつけたようなサイズのヤツで、お昼ご飯をいただいているときなんかに、目の前に「ポトッ」てな感じで天井から落ちてくることがありました。彼らはあお向きに落ちても、器用に体勢を立て直してはサササッと逃げてゆきます。そして私は、彼らが落ちてくるたびに、卒倒しそうになるのでした。

私はとにかくゴキブリが嫌いです。きっと前世でいじめられたに違いありません。

さて、昔を思い出しつつこれを書いているのですが、うっ、ちょっと気持ちが悪くなってきました。このつづきはまた今度。


2連球

2連球って知ってますか?

それは医療用の器具です。ちょうど軟式テニスのボールを二つ繋げたような形状をしていて、片方を手で潰すと中の空気が押し出され、もう一方のボールへ送られます。空気を送られた方のボールは網が被せてあって、空気が沢山送られてきても、一定の大きさにしか膨らまない仕掛けになっています。片方のボールを握っては放すということを繰り返すと、もう一方のボールからコンスタントに空気が出てくるという器具なのです。最近ではちょっと見掛けることがなくなりましたが、私が子供の頃には耳鼻科のお医者さんに行くと大抵目にすることができました。私の飼育バイブルであった杉浦 宏先生著の「海水魚の飼い方」という本には、エアストンを繋げて採集魚の輸送に使うと良いと紹介されており、A君兄弟もこれを使用していました。

今でこそ通称「ブクブク」の携帯ポンプがありますが、私が高校生の頃には、そんな便利なものはなかったと思います。あったかもしれませんが、その当時はとても高価で手が出なかったのかもしれません。

私たちはこれを持って採集に出かけ、帰るときは電車の中で、これを交代でシュワシュワとやるのです。

Y線の対座式のシートにA君と向きあって座り、足の間には他のお客さんの邪魔にならないようにバケツを置き、件の2連球で空気を送る作業を続けていると、自然と大人たちの視線が集まります。
(いったいこの子たちは何をやっているんだろう?)
大抵の人はそう思うようです。

そこで私たちは勝ち誇ったように微笑むと、さりげないふうをしてバケツの中味をみせてあげるのです。中にはアミメハギやナベカ、イシダイやニシキベラといった、どうってことのない魚しかいないのですが、それでも私たちには大事な戦利品です。
(僕たちは、スゴイでしょ?)
そんな気持ちです。今振り返ると、とても恥ずかしいのですがね…

でも、覗き込む大人たちにとっても、小さな採集魚は珍しく写るのでしょう。みな、
(ほほー!)
というような顔つきをして、2連球が作る泡の間に見え隠れする魚の姿を目で追っています。
なかには、これは採ってきたものか?と尋ねてくる大人もいます。

とりわけ、2連球には関心が集まるみたいで、試しにシュワシュワさせてみると、ほとんどの人が感嘆の声をあげるのでした。

このときの私の優越感といったら!勉強はできないうえに、特に優れた才能もなかった私にとって、自慢できることはその程度のことしかないのです。ここぞとばかりに「いきがる」気持ちがおわかりになるでしょうか?

社会人になって、多少経済的な自由がきくようになってからは、2連球を使うこともなくなりました。ブクブクもあれば、携帯用の酸素まであるからです。また車で移動することで、輸送の時間も少なくなりました。時間帯を工夫すれば、エアーの手当などしなくても、家の水槽まで連れて来ることさえできます、まったく便利な世の中になったものです。

でもね、たまに思うことがあるんですよ。
(2連球を借りて、採集に行ってみようかな?)
なんてね。


これが2連球。矢印の方向に手の平で押すと、網の被せたボールを通って空気が出る。
今の時代、電車の中でこれを使ったら、相当怪しまれるに違いない。

恐怖のマグネット・ボーイ

私が一番最初に手に入れたのは、今ではすっかり目にする機会の少なくなったステンレス枠の水槽です。たしか45センチのものだったと思いますが、当時高校生だった私にとって、お小遣いで買うにはそれがせいいっぱいの大きさでした。以降、A君の影響でどっぷりと海水魚の採集・飼育にハマっていった私の、記念すべき水槽第1号というわけです。

ショップで財布を逆さにして購入したその水槽は、パテがオレンジ色。コーナーの継ぎ目もくっきりとした、いかにも安物然とした代物でしたが、それでも殺風景な勉強部屋にセットしてみると、これがなかなかに映えるもので、私は大いに満足しておりました。

ところがしばらくすると、物足りなくなってきます。そりゃそうです、飼ってる魚が、ギンユゴイやボラですからね。なにせやつらは真水でも生きてるばかりか、ドンドンでかくなりますもの。

そこで父親を説得。60センチ水槽を購入する許可を得たのですが、私もだんだん目が肥えてきてますから、値段だけじゃなくて、長持ちのするものが欲しくなっています。冒頭で述べた水槽なんかは、継ぎ目から錆が目立つようになってきますし、パテがはみ出てくるのです。どうもだらしなくってイケマセン。何とか安く、良い水槽を(お小遣いの範囲で)手に入れたいと思うのも当然でしょう。

そこでA君に教わったのが、
「磁石がくっつくステンレスは安物。くっつかなければ安心。」
という目安。

それからというもの、私はいつもポケットに磁石を忍ばせてショップ巡りをするようになりました。そして、陳列してある水槽の枠に磁石をこっそりと当ててみて、それが安物かそうでないかを品評してみるのでした。たまにお店の人の目に止まったりして、怒られることはなかったものの、ひどくバツの悪い思いをしたものです。いやはや、今ふり返ると、まったく恥ずかしい行動ですが、それだけ一途だったということなんじゃないでしょうか?あはは。

結局、父親からお小遣いを余計にもらって、メーカーものの立派な水槽を手に入れたのですが、そのときのうれしかったこと!私はしばらくは水を張らずに眺めたものです。

そして磁石を当てて、くっつかないことを何度も確認すると、満足して一人ニッコリ微笑むのでした。

磁石
磁石がくっつくステンレスは安物と教わった。
これをポケットに忍ばせて、店員の目の届かないところでステンの枠に当ててみるワケ。
ヤなガキに見えたことだろう。

飛びまぁす、飛びまぁス

私にとってトビウオの稚魚は、初夏を感じさせるものの一つです。

朝早くに漁港の岸壁に沿って丹念に探してご覧なさい。運が良ければ、体長約1.5センチほどのトビウオ稚魚を捕まえることができるでしょう。

それがトビウオ稚魚であることを見分けるには、そこそこの眼力がないといけないのですが、一度捕まえて姿かたちを眼に焼きつけてしまえば、2度目以降はたやすいものです。どうぞ頑張って探してみてください。

大きさ2センチくらいのものは、ちょっと見には小枝が浮いてるようにしか見えませんが、動かない小枝がひょこっと動くようでしたら、トビウオ稚魚であるかもしれません。

私とA君は、それらしきものを見つけると、次のようなことをして確認してみます。どういうことをするかというと、手に持っている釣竿で、それが浮いているあたりの水面をちょっと叩いてみます。叩いて出来た波に反応したら、それはもうほぼトビウオに間違いないでしょう。あとは、そーっと網を近付けてハイゲット。

ところがこれを甘く見てはいけません。なにせ相手は「トビウオ」です。その名に違わず、「飛ぶ」のでありますから。たとえ大きさが2センチ足らずといえども、大人顔負けに、ピョンッとやるのです。で、これが見ていて(やっていて)非常に楽しい。魚採りというより、昆虫採集の世界ですな。トビウオを採っている大人の姿なんぞは、滑稽ですらアリマス。

「おおっ、と、飛んだ!」
だの、
「し、しまった!気取られた!」
なんて、大きな声でやってるのですから。

さてトビウオにも、ツクシやホソといった種類があるのですが、どれも飼育が非常に難しいと言えます。もっとも大きな要因は、餌の問題でしょう。私は未だに何を食うのか知りません。あの「受け口」で何を食べるのか?本当のところを、ぜひ知りたいものです。

でも長く飼えないもっと深刻な理由があります。それは「飛ぶ」が故の悲劇です。皆まで言わないでも分かりますよね。

長く飼えないということは、半分は理解しているのですが、もう半分は、ああすればウマク飼えるかもしれないとか、そうだ今度はああしてみようなんて思ったりもしているわけです。

こんど海に行くとき、私はきっとまた、トビウオの姿を探していることでしょう。

トビウオ

これくらい大きくなるまで育てたいと思うんだけど、やっぱり駄目。
何か良い方法ないですか?

お間抜けハリセンボン

岸壁採集の対象魚に「ハリセンボン」という魚がいます。皆さんよくご存じのとおり、フグの一種です。怒らせる(刺激する)と、体内に水を吸い込んで、大きく膨らみます。理科の教科書や図鑑などで、誰でも一度はあの膨らんだ姿を見た記憶があるでしょう?

このフグ、本当に針が千本あるかというと、そんなことはありません。実際には400本にちょっと足りないくらいで、これは数えた人がいるそうです。(スゴイ。どうやって数えたんでしょうか?1本ずつ番号をふっていったのか、あるいは、ちょっと気色が悪いですが、1本ずつ切りはなして勘定したんでしょうか?どっちにしろ、すごいや。)

初夏に採れるハリセンボンは,、体長が2センチ前後。普通の状態では、正面から見ると平べったくて、上から見ると「頭でっかち尻すぼみ」の、まことにユーモラスな格好をしています。もちろん針はたたんだ状態です。これが網で掬うと、大抵スーパーボールの「中」くらいの大きさになります。膨らんだ様はまさに球形。手のひらに乗せて、前後左右に揺らすと、コロコロと転がっちゃったりします。

さて、今年の初夏に一緒に採集した個体があまりにも可愛らしいので、A君はこれをとても気に入ったもようで、
「写真に撮るから、手伝いに来てくれ。」
と、私に電話をかけてきました。
「手伝いったって、簡単、簡単。怒らせて膨らんだところを手の平に乗せてくれるだけでいいんだから。あとは俺が写真撮るだけ。」
と言うのです。

さて写真撮影の日が来ました。彼の水槽部屋に行くと、A君は竹ヒゴを私に持たせて、
「さぁ、膨らませてくれ。」
と目で合図をしました。
私は心得たもので、手渡された竹ヒゴで、ハリセンボンのお尻のあたりをチョンチョンとつついてみます。すると彼(ハリセンボンの方ですよ)は、プウーッと膨らみます。私はすばやく手の平に乗せ、ハイ、ポーズ。A君がシャッターをきって、これで撮影会の終了。モデルさんには、水槽に戻っていただくことになりました。

それからしばらくの間、私とA君は、今度の週末にはどこの海に行こうかと話しておりましたが、ふと脇の水槽に目をやってみると・・・。どうも先程のフグの様子がおかしいのです。
(ありゃ、どうしたかな?)
と、二人で覗き込んでみると、なんと彼のフグ君が、お腹を上に向けて膨らんだまま、苦しそうにもがいているではありませんか!

いったいどうしたのかと子細に観察をしてみると、お腹の一部に気泡が溜まっていたのでした。つまり、さっき膨らませたときに、空気を一緒に吸い込んでしまって、それが抜けなくなっていた、ということなのです。

実は私は、
(やばい、このまま死んでしまうのではないか?)
と、少々うろたえたのですが、さすがA君は場数を踏んでます。ちっとも慌てることはありませんでした。
「あと、30分もすりゃ、元に戻るさ。」
と、まったく気に止める風もありません。

私が帰るときも、フグ君はもがいておったので、
「大丈夫かなあ?」
と、いささか表現はオーバーですが、後ろ髪を引かれる気持ちでした。

でもそれから数週間後、一緒に採集に行った帰りにA君を自宅に送った際、私はやっと安否を確認することができました。彼のフグ君は、私たちの姿を見つけると、水槽の端から端まで、餌の御ねだりポーズをしてくれたのです。

ああ、良かった!やっぱり、A君の言うことは本当だったのですね。


これくらいのヤツはまことに可愛らしい。


我慢比べモンガラ採集

これがツマジロ。
味があるモンガラだ。


たまにはこんなモンガラも採れる。


これは見たことがない!

学生の頃にK村さんという魚採りの名人と知り合い、夏の真っさかりに一緒に採集に行ったことがあります。

某半島の突端近くにあるその磯は、その地域特有のゴロタ石があまり見られなくて、タイド・プールもアチコチに出来る格好の採集場所でした。A君と私はK村さんとは別行動で、各々自作の網を手に、そこかしこの岩の割け目を覗いて回りました。

と、A君の、例によってすっとんきょうな声が聞こえてきました。彼は私に向かって、
「モンガラがいる!」
と叫んでいるのでした。

私がジャブジャブと水をかき分けて近寄って行くと、彼の指差す方向に、確かにモンガラらしきものが泳いでいます。でもそれはちょっと変わったモンガラでした。よくショップで目にするムラサメとはまったく異なった模様をしていたのです。二人は目で合図をすると、二手に分かれて追い詰めることにしました。

じわじわと、こちらの思うとおりに追い詰めて行ったとき、モンガラは私たちの殺気(?)に気が付いたのか、プィと方向を変えて、小さな岩穴に入り込んでしまいました。これは私たちの最も嫌なパターンです。二人はウーンと声をあげて、途方にくれてしまいました。彼らモンガラの類は、あの背中の刺を穴の中でピンと立て、「つっかい棒」にして出てこなくなってしまうからです。こうなると実にやっかいです。事実二人は、細い棒で穴の中をつついてみたりしたのですが、一向に事態は好転しませんでした。

でもあきらめるワケにはいきません。毎月の御小遣いだけで来れるような場所ではないのですから。そこで私たちは持久戦に持ち込むことにしました。穴の近くに二人で網を構えて、出てきたら蓋をしてしまい、モンガラの退路を断ってしまおうと考えたのです。

真夏の炎天下、二人は物も言わずに待ち構えました。じっと、じっと。たまにぴょこりと鼻先が見えたりするのですが、すぐに引っ込んでしまいます。キレそうになる気持ちを押さえつつ、待つことどれくらいだったでしょう?私たちの鼻の頭には大粒の汗が浮かんでいました。

と、
「今だ!」
そうA君が声を上げました。私たちはとっさに行動を起こしました。
穴に蓋をしたのは、A君だったか、それとも私だったか?もう良くは覚えていないのですが、とにかく穴から出てきたものの、隠れ場所を失ったモンガラは、いとも簡単に、もう一方の網の中に入ってくれたのです。私たちの作戦は見事に的中。粘ったかいがあったというものです。

さて捕まえたモンガラですが、体の上半分が緑がかった茶色、下半分は純白の「ツマジロモンガラ」という魚でした。

話が横道に逸れますが、こういうときのA君は実に頼りになります!図鑑を見ないでもほぼ100%の確率で名前を言い当てることができるのですから(言うまでもありませんが、飼育書やフィールド図鑑に出ている魚のレベルではありませんよ。そのくらいだったら、家の長男だって言い当てます。)!その点はあのお兄さんでさえ認めている筈です。私もいささか自信がある方ですが、こればっかりはかないません。私は今でも、ちょっとあやふやなときは、彼に「鑑定」してもらうことにしています。

さてツマジロモンガラですが、珊瑚礁域にすむ種類と比べたら実にシックで、少なくとも一般に「流通」している魚ではありませんので、私たちは大喜びしたものです。こういうちょっと珍しい魚が採れる、だから採集がやめられないということなのです。

私の気持ちわかりますか?うふふ。

タコの怨念

磯採集の仲間には、いろんなパターンの人がいます。

A君と私は、もっぱら鑑賞または観察用の魚を追いかけます。獲物がいなければ手ぶらで帰ります。一方で、鑑賞用の獲物がないと、食用の獲物を持って帰るという人たちがいます。それが良い悪いかはここではお話ししませんが、そんな人たちと採集に行ったときの話をします。

あいにくの曇り空で、チョウチョウウオを数尾採集した私とA君は、お昼までまだ時間があるにもかかわらず、早々と帰り支度を始めました。それ以上がんばっても、めぼしい獲物はいないと判断したからです。

ところが一緒に行ったうちの一人であるK村さんは、なかなか水から上がろうとはしません。聞けば、そう頻繁に採集にくるわけではないらしいのです。魚採りが面白いというよりも磯で遊んでいるほうが楽しいといった感じです。きっと面白くて、おうちに帰りたくなかったのでしょう。私にはそんなK村さんの姿がとても微笑ましく見えました。そこで私は、ご本人には少々失礼とは思いましたが、K村さん自身の行動をちょっとばかり観察してみることにしました。

しばらくすると、K村さんは「何か」を発見した様子で、水の中で腕をのばして、その「何か」をしきりに採ろうとしているようでした。でも結局あきらめた模様。K村さんは泳ぎながら、観察者である私の足元近くに寄ってきました。

「ぶはぁ!」
と、いかにも疲れたように大きく息を付いたK村さんは、私に向かって照れたような笑顔をみせました。
私は、
「どうです、何か面白いものでも見つけましたか?」
と尋ねようとしたのですが・・・

その時のK村さんの背中に、私は異様なものを見つけたのです。それは何やらウニョウニョと、色白のK村さんの背中でうごめいています。私は、
「け、K村さん!せ、背中に変なものが!」
と叫び、思わず後ずさりをしたほどです。

私の声に気がついたのか、その日一緒に行った数人の採集仲間たちも集まってきました。みんなもその異様な物体に気付いたようです。するとMさんという恐れ知らずの若者が(「恐いもの見たさ」の気持ちも半分あったのでしょうが)K村さんに近付いて、何とその気色の悪いものを大胆にもヒョイとつまみあげたのです。そして大きな声で言ったのです。
「なんだ!タコの足じゃないか!」
そう、K村さんの背中についていたものはタコの足だったのです。

これには一同大笑い。いやK村さんの冷やかされることといったら!私は例によって、しばらくの間笑い転げてしまいました。なんという愉快な人なのでしょう!私は、皆に冷やかされて照れるばかりのK村さんがすっかり好きになってしまったのです。

あとで聞いた話ですが、あの時K村さんが捕まえようとしていたのはやっぱりタコ君だったのです。岩の間に見え隠れしていた足を引っ張ったのですが、その時はスルりと逃げられてしまい、あきらめたのだそうです。背中にそれが貼りついていた時も、皆何を騒いでいるのだろう?くらいにしか思わなかった由。きっとタコ君は足を自切したのに違いありません。それが波のイタズラで背中にくっついたのでしょう。
いやいや、これは怨念かもしれません。

タコ君にしてみれば、必死の思いで逃げたのでしょうね。でも良しとしなければ。丸ごと捕らえられなくて良かったんですから。

さて、とどめの「落ち」をご紹介しなければなりません。彼のタコ足ですが、あれからすぐに、Mさんのお腹の中に「刺身」として収まってしまいました。怨念、Mさんに通ぜずといったところです。タコ君、逃げることができて本当に良かったね。


強者(つわもの) の雰囲気

あちこちのタイド・プールで採集に没頭していると、私の場合、まったく時間の観念がなくなってしまうときがあります。当然のことながら、お昼ごはんのことなど考えていません、お腹が空かないということもありますが、水から上がって食事をするというのが、ひどく面倒くさい行為に感じられてしまうからです。磯に行く前に、コンビニでそれらしきものを用意したりするのですが、それもコロッと忘れることさえあるくらいです。

でも、水から上がった後というものは、不思議と汁気の食べ物が欲しくなるもので、突然にハラぺコであることに気付いた私は、やっとその日初めての食事を、ラーメン屋さんなんぞに飛び込んで掻き込むということになります。だから家に帰って荷物の整理をしていると、その日の朝に買ったソーセージ・パンが、ひしゃげて出てきたりします。

さて磯でソーセージ・パンをひしゃげる前に頬張っていたある日のことです(そんなことは非常に珍しいことなのですが・・・)。お行儀の悪いのは承知の上で、私はそのパンを片手に、漁港の岸壁をウェット姿のままでブラブラと偵察に歩いておりました。

すると岸壁の向こう側から黒いウエットに身を包んだ男性がパシャパシャと泳いで現れました(現われ方が唐突であったので、私はイルカが港に迷い込んできたのかと思いました)。シュノーケルからはヒューヒューと音をさせ、両手には柄の長い網を持っています。で、この人の身のこなしが、実に「ただ者」ではないのです。もちろん私は、しばらくの間、観察させていただくことにしました。

彼の人は岸壁のコーナーやら、岩棚になっている場所を、それこそ舐めるように丹念に覗き、ときには例の柄の長い網を器用に操って魚を採集してるようでした。そしてぐるりと港を1周すると、今度は小さな湾の向こう側まで泳いで行ってしまったのです。私が見ている間、その人は一度も顔をあげることはありませんでした。

私は彼を見送ると、足元に放り投げておいた道具を再び手に持って採集の続きに入りました。ところが妙に落ち着かない。さっきの達人らしき人が何を採ったのだろうかという疑問が頭から離れなくなっていたからです。その日はお目当ての魚を採集できたこともあったせいか、私はどうも採集の続きに熱が入らなくなってしまいました。
(邪魔かもしれないけれど、「何かいますか?」くらい聞いても良かったかな?)
そんな気持ちでした。

私は何だかつまらなくなって、帰り支度をすることに決めました。で、車のところへ戻り道具などを片付けていると、隣に駐めてあった車の脇に人が休んでいるのに気が付きました。その人はキャンプ用のコンロでカップ麺のお湯を沸かしている風でした。そして足元には、水色の発泡スチロールの箱が置いてあります。

私はここでピンときました。そうです、
(あっ、もしかしたらさっきの人じゃないだろうか?!)
そして私の想像は誠に見事に的中したのです。

それからどうしたかって?そりゃあもちろん、お話させていただきました。聞けば相当のベテラン。キャリアは私と同じくらいかな?採集に来るのは秋以降から、つまりそれからがシーズンであることをしっかりと知っているのです。

落ち着いた(この辺がヘラヘラしている私と全然違う)物腰の、とても穏やかな人でした。
「お願いです。ちょっと獲物を見せてください。」
と頼む私に、嫌な顔をするわけでもなく、また自慢するでもなく、蓋を開けて見せてくれるのです。そしてそこには、1センチにも満たないミツボシクロスズメや、黄色がまぶしいアケボノが沢山泳いでいたのでした。そしてその人はポツリと呟くように言いました。
「今年はアケボノが多いですね。」

やっぱり彼は達人であったのです。

帰りの車の中、私はその人の名前や住所を聞かなかったことをチットモ後悔してはいませんでした。なぜなら、そこに行けばその人に会えるであろうことを確信していたからです。


テレカ

クィーンが「サザナミヤッコ」として紹介されている。「コ」の字がみえるだろうか?

でもなぜか許せると思う。とやかく言うまい。自分だって今でもよく勘違いをするのだから。

生物を飼うのだって同じようなものだ。私は未だに失敗をして駄目にすることがある。いつまで経っても下手くそなんだなとばかり思っている。

「自分はベテランだ」とか、「私は飼育が得意デス!」だなんて、とてもじゃないが公言できない。

ああ勘違い

ある晩夏の連休のことでした。私とA君が某島へ採集遠征に行った時の話です。

生憎と台風が北上しつつあり、風のせいで水面にも沢山の細波が立って、遠征初日から非常に先の思いやられる状況にありました。水に入る前は、
「こりゃあ、あまり期待できないかな?」
と心配で、心配で・・・

ところがいざ「いでたち」を整えてジャブジャブと進んでみると、これが予想に反してスゴイ魚影。私たちお気に入りのべラやハギの稚魚があちこちに・・・。私なんか、
「スゴイや!やっぱり普段の行いのせいだね!」
などとワケの分からぬことを言って、しきりにA君に同意を求めたりしたものです。

ともかく予想外の獲物まで採集できた我々は、すっかり余裕しゃくしゃく。いつもなら、夜はバタン・キューとばかりに眠りにつくのですが、その日は珍しく、ホテルのお土産コーナーを冷やかしてみようということになりました。

どこのホテルにもあるような、そのお土産コーナーのショーケースを覗き込んでいると、二人の視線はあるテレフォン・カードに釘づけになりました。そして二人は顔を見合わせると、プッと吹き出してしまいました。そして二人して、
「これ、買おう!」
と、ハモってしまったのです。

そのカードには、ショップや飼育書でお馴染みの「カリブの女王」クイーン・エンゼルが、金文字の「サザナミヤッコ」という麗々しいコメントとともに紹介されていたからです。何とおおらかな「勘違い」なのでしょう!

私はこみあげてくる笑いを堪えながら、今度は別のことを思い出してしまいました。それは、私の長男がまだ小学低学年のときの話です。

土曜日だったと記憶していますが、学校から帰ってきた長男は、自分のランドセルほどの大きさの図鑑を図書室から借りてきたもようです。そしてあるページを開いて、
「おとーさん、変だよ!」
と、ある写真を指さしました。彼の小さな人差し指の先には、朱も鮮やかなツユべラの写真があります。でも彼の言うとおり、何か「変」なのです。そこでじっくり写真を改めてみると、なんと天地が逆になっているではありませんか!でも長男はそのことに気が付いていません。
「ツユベラみたいだけど、違うよね?」

私はそのときフッと思いました。
(こういうときは、どんな説明をしてあげたら良いのだろう?)

でも私は少しも慌てず、こう答えました。
「あはは、それはネ。ラベユツっていう魚なんだよ!」

息子はこれまた心得たように、
「やっぱ、別の魚なんだ!」
だって…。可笑しいですね。

クイーン・サザナミを見ながら一人そんな思い出し笑いをしている私を見て、A君はいったいどんな思いをしたことでしょうか?

今度その島をA君と一緒に訪れることがあったら、
「あの時の思い出し笑いは、こういう理由だったのさ。」
と教えてあげることにします。


保温はお湯?

ついこの間のこと、仲間と一緒に採集に行ってきたのですが、その時の車中で話題になったのが、
「いったい採集家たちはいつ頃まで海に入るか?」
という問題でした。

私が水に漬かる季節は、7月から10月まで。それより前も後も、皮下脂肪ゼロの私には、いくらウェット・スーツを着ていても、とてもじゃありませんが寒さに耐えきれるものではありません。一度だけ富士山の頂に雪を見ながら採集したことがありますが、やっぱり寒くて、1時間ほどで上がって来たことがありましたっけ。もっとも、この頃には私の専門であるタイド・プールには、めぼしい魚は入っていないのですが・・・

これは他の採集家の皆さんも似たようなものだと思います。このことを普通と見るのは、採集家本人か、またはその家族でしょう。
「10月になっても海に入るなんて少し変なんじゃないの?」
と感じるのは、常識を持ちあわせた人々だと言えます。

さてここである仲間の話に移りましょう。
前から聞いていた話ですが、その仲間は11月まで水に入るそうです。これはもう、情熱というか、やはり病気ですな。

少々脱線しますが、当HPの主役である死滅回遊魚は、この時期くらいまでは採集が可能です。これは「十分可能である」ということで、実際には死滅回遊する魚自身はもっと先まで生きています。12月にトゲチョウを採集したとか、2月にチョウハンを採ったなんてのはよくある話です。また、その年の気象状態にもよりますが、越冬するものさえいるのです。ただし、前にも述べたように、この時期に豆チョウを磯採集しようとしても、それはほとんど不可能な話です。黒潮に乗ってやって来た彼らの大半はかなり成長してしまって、深いところへ生活の場を移動させているのですから。まあ、この辺の問題については、いずれ項を改めて論じることにいたしましょう。

本題に戻りましょう。ともかくその仲間といったら、寒さをいとわず水に入って行くということですが、この時期の魚たちは動きも鈍くなり、採集自体、技術的にはそう難しくないという話です。

ある晩秋の日、水に入ったその仲間は、何尾かのツノダシを採集しました。で、それを持って帰ろうとした時、あまりの寒さにツノダシ君がヘロヘロになってしまった。というのも、外気温があまりにも低くて、バケツの中の水温が極端に下がり、魚の体力が付いて行かないのです。

慌てたその仲間は、どうしたと思いますか?これをお読みのあなただったら、いったいどうするでしょう?
まず思いつきそうなことは、
○車の暖房で暖める
○焚き火をして暖める
ま、こんなところでしょう。でも、どちらも即効性はありませんよね。

では解答です。
なんと彼は近くのコンビニに駆け込み、
「お湯をください!」
とやったのだそうです。どうです!素晴らしい反応ですね!

その話を聞いていた時、私は正直に言って、コンビニでお湯だなんて、まったく想像もしていませんでした。恥ずかしながら、それからあとの話は聞いていないのですが、きっとビニール袋にお湯を入れ、それをバケツに浮かべて急をしのいだに違いありません。

コンビニのお湯といえば、これはもうカップ麺しかないワケですが、所望された店員さんは、一体どんな反応をしたんでしょうね?マニュアルどおりにしか行動できない彼らが、臨機応変な対応ができたのでしょうか?そのあたりも実に気になるところで、こんどその仲間に会ったら聞いてみることにします。どちらにせよ、ひどく不審に思われたのは当然です。

でも採集家たるもの見習わなければならないエピソードじゃありませんか?

あなたもその時期に水に入って、珍しい魚を捕まえたら、そうされるのが良いでしょう。私は、そんな寒い時期には入りませんからダイジョウブ。


だっちゅうの!

「チョウハン」という赤くて可愛いチョウチョウウオがおりまして、採集家の中には、
(こいつが一番好きだな!)
という人も沢山いらっしゃるほど。初夏の頃にはタイドプールで捕らえることができるのですが、シーズンの終わり近くの10月ともなると、大変にスマートに成長した個体を採ることができます。もっともその頃の彼らは、動きも素速くて、これがなかなかに苦労をするものなのですがね。

さてシーズン終わりのその日も体長5センチほどの個体を沢山目にしたものの、今も述べたように敵もさるもの、人の姿を見たとたんにピューンという感じで逃げてしまって、私は少々イライラしておりました。

そんなとき、
「オーイ!いいサイズのチョウハンがいるぞお!」
というA君の声が聞こえました。

私が近寄ると、彼は水面に顔を伏せたまま、大きな丸い岩の周囲をグルグルと回っておりました。私は、
(ふむふむ、A君、見つけたな!)
と、雰囲気で分かりますから、手伝ってあげることに決めました。彼がチョウハンを追って私の前を通り過ぎ、ちょうど岩の反対側に行った頃、チョウハンの逃げ道に玉網を構えてあげようと思ったのです。
後は待っていれば良いだけですものね。

そして1回目。私が網を構えていると、やってきましたチョウハンが!ところが不覚にも少し隙間があったのか、獲物はうまい具合に網に入ってくれません。スルリと抜けて行きました。そこでもう一周。今度は隙間のないように調整したから大丈夫。そして来ました、チョウハンが・・・。
(シメシメ・・・)
私は思わずほくそえんでしまいました。

と、逃げてきたチョウハンが網に入るその時のことです。私は、
「うへぇ!」
とも、
「うぎゃあ!」
とも分からぬような悲鳴を上げて、水中にもんどり打って没してしまったのです。何故って、チョウハンの真後ろには、大きな大きなウツボが、エラ蓋をバフバフさせてやって来たからです。いや恐かったのなんの!

ところがA君ときたら、そんな私に一蔑さえくれずにチョウハンを追い続けています。私は体勢を立て直し、3回目にチャレンジしようとしました。そしてその時を待ちました。すると今度は順番が入れ変わっているではありませんか!ウツボ、チョウハン、A君の順なのです。私はまたも悲鳴を上げたのです。
「それは、ウツボだっちゅーの!」

その後私は3回ほど「だっちゅーの!」と叫んだことを、よーく覚えています。

私ははじめ、次のように思っていました。
(A君、夢中で気がつかないんだな?)
と。

ところがです。やっとのことでチョウハン君を捕まえた直後でした。いったい彼は何と言ったと思いますか?
「いやあ!でっけえウツボだったなぁ!」
だって!

「何だよ。分かってたんなら、早く言えよ!」
珍しくも怒ってしまったSyunさんの図なのでアリマシタ。


サクラダイ

「次は練馬あ〜」というギャグが分かるかな?

そう!サクラダイです。なはは。

ハナハゼがいた漁港に1尾だけポツンと浮かんでいた。

A君はコイツをいとも簡単に釣り上げた。

漁師の網に掛かって捨てられた個体だと推理しますね、私は。

運が良ければこういう魚も釣れますよということ。

ハナハゼの怪

私の大好きな魚に、ハナハゼという魚がいます。

初めて会ったのは今から数年前。A君から、
「ハナハゼ採りに行こうよ」
と誘われ、言うがままに連れて行ってもらったI半島でのことでした。
実を言うと、私はその時まで、恥ずかしながら「ハナハゼ」という魚のことを少しも知りませんでした。
(ハナハゼというからには、花のように赤いハゼなのかな?)
くらいにしか想像していなかったというのが本当のところです。

さて初秋のある日、S先生に教えて戴いた秘密の場所のほど近く、小さな漁港に車が差し掛かった頃、助手席のA君が、
「ちょっと、ここに寄ってみよう」
と言って、車を右に寄せるように指示しました。
港には釣り人もまばら。私は空いたスペースに車を止めると、A君と一緒に岸壁の上から魚の姿を探し始めました。でも、二人で同じところを探しても仕方がない。私は彼と反対の方向へ足を進めることにしました。日が少し高くなってきたこともあって、私はいい気持ちで水面を覗き込みながら歩いていたのです。

しばらくした時、A君が小さな声で呼んでいるのが聞こえました。
「いるいる!こっちこっち、ハナハゼ…」

私がちょっと小走りに駆け寄って彼の指差す方向を見ると、そこには体長15センチほどの魚が50尾位の大群で漂っているのが分かりました。そしてそれは何とも喩えようのないほど神秘的な光景でした。ハナハゼという魚は、私の想像していたものと全く違っていたからです!それは淡いブルーの非常にスマートな体型で、おどろくほどに尾鰭の条が長い、実に優雅な魚だったのです!

私がその神秘的な光景に見とれて、少しの間ボーッとしているとき、A君は何をしていたのかというと、車のトランクから釣りの道具を出して来て準備をしている様子でした。そして餌を付けると、何気なく糸を垂れました。
「ハナハゼは釣りで捕まえるのさ」
と言って、私にも同じことをするように目で合図を送ります……。

……しかし!これが釣れない。ハナハゼは非常に神経質な魚で、ちょっとした事にも反応して、すぐに底の方へ逃げてしまうのです。何度やっても駄目。結局この日はハナハゼを釣ることが出来ず終い。私たちはサザナミフグの豆君1尾を収穫して帰るハメになってしまいました。

それから2週間後、
「釣りをしたい!」
という長男を連れて、A君と3人で同じ場所を訪れた時のこと。前と同じように、ハナハゼ達はそこにいました。私たち3人は勇んで釣りの支度をはじめました。前回あれだけ粘って釣れなかったという苦い経験のあるA君と私は、ちょっとまじめに取り組むつもりだったのです。

さて、
(今度は何とか釣り上げてみたい!)
私がそう思いつつ糸の先をじっと見詰めていると、
「おとーさん、えへん、釣れたよ!」
と息子の自慢げな声が聞こえました。そして彼の手元に目をやると、そこにはハナハゼがピョンピョンと跳ねているではありませんか!
これにはA君も私もびっくり。しかし驚いてばかりはいられません。私もA君も、「大先輩」の面目がありますものね。でもね、かかるのは息子の方ばかり……

結論から言いますと、この日は沢山のハナハゼを釣ることが出来ました。飽きっぽい息子は、何尾か釣ってしまうと、あっちへブラブラ、こっちへふらふら。その後「当たり」の来た私たちは、何とか大人の面目を保つことが出来たという次第です。

私は釣りというものはめったにやりません。したがってこういうこと、つまり姿は沢山見えるのに、ある日は釣れて、ある日は「坊主」というのがどうも理解できません。いったいどういう事なんでしょうか?魚の性質?それとも潮回り?いや天候の具合でしょうか?私にとっては「ハナハゼの怪」と理解するしかないようです。どなたか説明の出来る人、いらっしゃいますか?

そしてもう一つ「ハナハゼの怪」があります。それは、翌年、そして翌々年のことです。あれだけ沢山のハナハゼを見ることができた漁港を何度訪れても、私たちは1尾の姿も見ることが出来なかったのです。確かにそれらの年は、私たち採集家にとっては「不漁」の年ではありました。でもハナハゼは死滅回遊をする魚ではないのだと思うのです。これもいったいどういう事なんでしょう?全く「怪」としか言いようのないことだと思うのは私だけでしょうか?

ハナハゼは釣りで採集することができる。尾鰭の条が長くて、とても優雅だ。でも釣りで釣るサイズは小型水槽には向かない。これで小さいのが採れると良いのだけれど…。大きな水槽に沢山泳がせると、面白いと思う。


石鹸魚「ヌノサラシ」

「ヌノサラシ」という変わった魚がいます。成魚で15センチほどの大きさになる中型のハタの仲間です。幼魚の頃は、真っ黒な全身に、顔から尾ヒレにかけて数条の黄色い縞が走ります。背ヒレにある真っ赤な斑紋がトテモ印象的な魚です。

私たちが初めて採集したのはW県の某磯。くるぶしほどに水の溜まったタイド・プールでありました。そこには1箇所だけ岩がはり出した部分があって、丁度日陰となる「裂け目」に彼は隠れていたのです。

他にはどこにも隠れる場所のないプールですから、網に入れるのは実に簡単。一方で網を構え、掌でそーっと負い込むだけでOKです。

2センチくらいの「ちびヌノサラシ」は、大きさこそ小さいものの、顔つきはちょっと恐いくらいで、その大きな口はまさしく魚食魚のそれでありました。

さて、この魚のどこが変わっているかと言いますと、恐怖を感じたりすると、体から白い粘液(グラミスチンという粘液毒です)をモワモワと放出するのです。この粘液というのがまた弱りものでして、他の魚と一緒にでもしておこうものなら、まず大抵の魚はコロリと逝ってしまいます。現象としてはハコフグがよくやるアレと似ていますね。見た目にハコフグと違うのは、まったく粘液然としていて妙に泡立ちが良いことと、色が白いということです。とにかく、
「ありゃりゃ!泡を出しよったな!」
ということがすぐに分かるほどなのですから。

もちろんA君と私は、それくらいのことは前知識として十分に知っておりました。大体教科書なんかより飼育書や図鑑の方を耽読していましたし、ひどいときには授業中に水槽内のレイアウトをノートに書いてやりとりしていたくらいの少年であったわけですから・・・

ところが、実体験というものが伴っていなかった。ヌノサラシが泡を放出するという知識はあったものの、さてそれがどんなものであるか?なんてことは少しも体験がない。

その「ちびヌノサラシ」を採集したときも、
(こんなちび助が泡を出したって、多寡が知れてるさ!)
くらいにしか考えていなかったのでした。

ところがギッチョン、網から出してビニールバケツに入れたとたん、中の水がみるみる白くなり、泡までたちはじめました。幸いにも他の魚を一緒にしていなくて助かりましたが、その状態といったら、まるで石鹸水が泡立っているようだったのです。

とにかく、磯でコイツを採集し、連れて帰ろうと思うのなら、必ず他の魚とは別にしておかなくてはなりません。

ヌノサラシ=布晒し。「晒し粉」というのは今でいう石鹸のことでしたね。昔の人はうまい名前をつけたものです。


ヌノサラシの英名はsoapfish
洋の東西を問わず、連想するところは同じなのだという好例。



ホンソメ

ネオンゴビーによく似てるでしょ?ツンツン泳ぎが可愛らしい。

ホンソメ行方不明の真相

他の採集家がどのようであるかは知りませんが、私は1年に1度はホンソメワケベラの稚魚を採集してきます。このベラは英名をバーバーフィッシュともいい、他の魚の体についた寄生虫を食べてくれることで大変に有名ですね。

また、この魚からは大変良いダシがとれ、これを使うとおいしいスープができるのだそうです。「ホンソメスープ!」というのはA君得意のダジャレでした。

冗談はこれくらいにしときます。
今日はとても残酷な内容のお話ですから。

このホンソメの稚魚ですが、若魚や成魚の頃とは違って、青というか紺というか、とにかくメタリックブルーが鮮やかで、色彩的には丁度カリブのネオンゴビーというハゼによく似ています。(どちらもクリーナーとしての性質を持つということは、海の中では「それ」が看板みたいな役割を果たすのでしょう。これはまったく不思議なことですね。)

この魚を水槽の中に入れると、非常に良いアクセントになりますし、つんつんとした泳ぎ方も可愛らしくて、見ていて飽きない。おまけに他の魚をクリーニングしてくれるのですから、生態観察という点でも面白い。これはもう「一石二鳥」以上です。運がよければ、関東以南の磯で採集することができますから、こんど海に行ったらよおく目をこらして探してみると良いでしょう。

さてこのホンソメ稚魚についてですが、私にはまったく不可解なことがありました。それは、大抵は1ヶ月くらいで水槽から姿を消してしまうということでした。食われたというのは、ちょっと考えにくいです。なにせクリーナー・フィッシュなのですから。もしかしたら水槽から飛び出したのかもしれないと、あたりを探しまわしてみたりもするのですが、「干物」などは見あたりません。もちろんサンプ(沈殿槽)にもいません。私には彼が行方不明になる理由がまったく分からないのでした。これはいったいどうしたということなのでしょうか?

(おかしいなぁ?なぜなんだろう?)
と首をひねる日が続いたある日のことです。夜中に懐中電灯で水槽を観察していた時、急に私の耳元で
「カラカラカラ!」
とパワーヘッドが勢いよく回り始める音がしました。
そしてその時、私の脳裏には恐ろしい考えが黒雲のように湧いてきたのでした。

ここで少し横道にそれますが、ホンソメが寝るときどのようにしているか知ってますか。「ベラ」というと、そのほとんどが砂に潜って寝ますね。ところがこのホンソメはそうではありません。多くは自分が隠れることのできる狭い場所に身を置いて寝るのです。そうです、ちょうどブダイのようにね。私の観察では頻繁に寝場所を変えてもいるようです。また、この「隠れる」という行動は、びっくりした時にも見られ、水槽に手を入れた場合などは、よくそうするように見えました。

さて私が感じた黒雲のような不安とは次のようなことでした。
(彼は水流用のパワーヘッドの出水口付近を寝場所にするか、或は一時の隠れ場所にしていたのではないか?)
このパワーヘッドは、タイマーによって稼動非稼動を繰り返しているのですが、もしモーターが動いていないときに入り込んでいたとしたら!

あとのことは考えたくもないですね。でも、もし私の想像が(まったく嫌なことですが)的中していたとしたら、これはもう完全に人為的ミスです。

何年やってても、反省することって多いですね。知りたくなかった「真相」でした。


黒豆?サザナミフグ

成長すると30センチにはなろうかというサザナミフグ。初夏から盛夏にかけて、私たちはこの魚の稚魚を、岸壁などで容易に採集することができます。

稚魚の時代は、表題にもありますとおり、まったくの「黒豆」です。特に大きさが1センチに満たない頃は、目も口もいったいどこに付いてるんだか分からないほど。容易に採集できるとは言いましたが、それは網に入れるときのお話。それと見分けるには、相当の熟練を要します。海藻や、芥の中に紛れ込んだヤツなんて、ちょっと、そっとで見分けのつくものではありません。

観察していて面白いのが、まず泳ぎ方。どうしてなのかは知りませんが、チョコッと突き出た尾ひれを体にピタリと寄せて、そのままの格好で移動します。これは体を丸くすることで、
「僕は、海藻の実なんだよ!」
ということを表わしているのかもしれませんね。いわゆる「擬態」ですね、でも飼育している水槽には、擬態の対象となるものなんかありません。生まれた時から持つ習性なのでしょうが、ケナゲな行動です。

次に面白いのが、摂餌のとき。もともと餌付きが良いので何でも食べますが、冷凍のブラインシュリンプを与えたときの様子がまことに面妖。簡単に描写しますから、ちょっと想像してみてください。

朝、彼は大抵水槽の隅っこか飾り岩の影に隠れています。そこへ冷凍ブラインの解凍したものをスポイトで流します。すると匂いに気がついた彼が、尾ひれをたたんだままの格好で、フワーッと餌の方へ近づいてきます。直径5ミリほどの彼は、全身真っ黒のマックロクロスケで、
(進んでいる方向にあるのが頭だな?)
という程度しか分かりません。

さて餌を見付けた彼は、ツーッと近づき、それをくわえようとします。さあここからが面白いところで、真っ黒な魚体の一部分が、ほんチョコッと裂けて「口」が現れます。よく見ると「歯」があるのがわかります。今まで球面にしか見えなかった部分に突如「穴ポコ」が出現するわけで、最初これを見たとき、私は思わず、
「おおーっ」
と小さく叫んだものでした。

そしていよいよ餌を含むのですが、これが思いの他に素速い。チュルンッという感じで飲み込んでしまうのです。ブラインシュリンプはどちらかというと白っぽい色をしていますが、それが黒い球体にあっというまに吸い込まれてしまう・・・。まったくたとえようもない面白さです。

どうです?想像しながら読むことができましたか?えっ?想像できない?では今度海に行ったら、岸壁採集で捕まえて来てください。そして連れて帰って来てください。そうすれば、きっと私と同じ体験ができるでしょう。

ものぐさなあなた!ショップで探したって、それは無理という話。ぜひご自分の「目」で見つけ、自分の「腕」で採集してください。


ハゼもろもろ

上から順に、
・ヨスジハゼ
・サツキハゼ
で、
下から2つはクロユリハゼの成魚(上)と稚魚(下)。

我ながらよく描けてると思うのだが、特に上の2つの見分けがつくだろうか?

違いが分かるあなたはエライ!

ヨスジハゼ

サツキハゼという、灰色に黒い縞が入った(ちょうど同志社大のラグジャの配色のような感じです)、地味なんだけどトテモ味わいのあるハゼがいます。シーズン中なら、漁港の岸壁から足下を眺めてご覧なさい。水面近くに群れで沢山いるのを見つけることができるでしょう。目の細かい網で追い込めば、簡単に掬うことができますよ。

大きさは2センチから、大きくても5センチくらい。ハゼといっても、底にいるタイプではありません。水槽に入れると、中層をホバリングします。中サイズなら5,6尾を入れると、非常に良いアクセントになります。どちらかというと温帯系の魚なのですが、これがリーフ・タンクに入れても結構映えます。機会があったらぜひ採集して、飼育してみてください。

これとそっくりなハゼに「ヨスジハゼ」という魚がいます。これはちょっと見分けが付きません。配色はほとんど同じ。おそらく大抵の人は、この両者の違いをすぐに指摘はできないでしょう。でも良く観察してみると、微妙に違う。「採集のページ」でもご紹介していますが、A君は両者の違いを
「ハコフグとミナミハコフグの違い」
と、まことに言い得て妙なる表現をしていますが、これは蓋し名言であると私は思います。

簡単に言うと、「品のあるサツキハゼ」といったところでしょうか?

さて、良く似た魚の話をして、いったい私は何を言いたいのかというと、
(群れの中には良く似た別種がいることがある)
ということなのです。

例えば、オヤビッチャの群れの中のロクセンスズメやシマハギ。ニシキベラなどの稚魚の中にコガシラベラ…クギベラ…。
もっとあるかもしれませんね。

つまり群れでいるからとやり過ごすのは、ちと早計ですよということです。
思いもかけない魚が紛れ込んでいるかもしれないのです。

そして私のラッキーな体験をお話します。

晩秋のある日、サツキハゼの小群を網に入れた時のことです。適当な大きさの個体を選ってイケスに入れていると、
(おや?)
と私の手が止まりました。直感とでも言ったら良いでしょうか?
(なんかサツキハゼとは違うみたいだぞ!も、もしかしたら!)
黒くて、細長くて、ロケットみたいな感じ。そうです、それはクロユリハゼなのでありました。


お粗末!防波堤採集

防波堤採集というと、私の場合「流藻採集」がメインになってしまいます。水面に漂う海藻や枯葉の陰に身を潜めている魚を掬うという手法で、これはこれでなかなかに面白いものがあります。ところが専ら防波堤採集だけを行うという人もいらっしゃいます。彼らの特徴はまず道具の凄さです。もう、工夫の凝らし方が尋常じゃありません。大人がスッポリと入ってしまうような網、応援団の団旗用の長い柄の網、そして奇抜な網・・・。数え上げたらキリがないでしょう。道具を見ているだけでも感心してしまいます。

そしてそれらの網は大抵が自作ということになります。
(この網を作っているとき、製作者である採集家は、きっとわくわくしながら作業に没頭していたのだろうな?)
なんて想像をしてみると、その気持ちがこちらの方にも伝わってくるというものです。思い入れといったら相当なものでしょう。
「その網でどんな魚を採りましたか?」
などと尋ねてごらんなさい。彼らは嬉々として自慢話をするでしょうね。 きっと面白い話が聞けるに違いありません。

彼らの特徴の2点目は、磯採集に負けないほどの収穫をあげるということで、チョウチョウウオはもちろんのこと、中にはツノダシ、ハタタテといった美魚を捕まえる「達人」もいたりします。

さて私とA君で某漁港に採集に行ったときのことです。防波堤の上から水面を覗き込んでいたA君が、ふっと身を屈めるしぐさをしました。その雰囲気を私が見逃す筈がありません。私は車にとって返すと柄の長い玉網を取り出し、女房役よろしく、そっと彼に手渡してあげました。A君もその辺は心得たものです。目は水面から放さず、手探りで網を受け取ります。そして彼の指さす方向に目をやってみると、そこには500円玉と同じくらいの大きさのアケボノチョウチョウウオが2尾戯れていたのでした。

A君は少し離れた場所から網を近づけ、アケボノとの間隔を徐々に狭めて行きました。するとアケボノ君たちもこちらの様子に気付いたのか、防波堤に沿って居場所を変え始めました。しかし不思議なことに決して深い方へ逃げたりはしません。私はこのときスッカリ確信していました。
(これは2尾ともイケル!)
A君も思いは同じなのか、網のさばき方も妙に落ち着いているのでした。

実を言いますと、私たちはこういう採集には長けておりません。A君も本当のところは、結果がどうなるかなんて予想ができていなかったに相違ないのです。

ところが意外な展開が私たちを待ちうけていました。というのは、アケボノ君たちがコンクリートの隙間に生えた海藻の陰に隠れた瞬間、A君は電光石火の早業で、カポッとばかりに、海藻ごと網を被せてしまったのです。いやはやその動作の素早かったことといったら!もちろんアケボノ君は2尾とも網の中。壁面で蓋をされてしまったら、もうどこにも逃げる場所などありません。
それを確認した私は、
「よっしゃぁ!そのまま!」
と言い残して、再び車へバケツを取りに走りました。
(よしよし!それにしても今日はウマイ滑り出しだぞ!)
なんてニコニコしながら・・・。

そして私がバケツを下げてA君のもとへ戻り始めたその瞬間、
「あれぇ〜〜!」
という、実に情けない声が聞こえて来るではありませんか。私はいやーな予感に襲われました。
(も、もしかしたら?)
A君のもとへ駆けよってみると、案の定、網に入ったはずのアケボノ君2尾が遠くに逃げて行くのが見えました。傍らにはA君がショボンとした様子で突っ立っています。ことの次第を察した私は、
「あ〜あ!」
と大きなため息をついたのでした。

でも私は、
(どうして逃がしてしまったのか?)
という点を聞きただすことができませんでした。何故って、一番ガッカリしていたのは、A君その人なのですから。磯採集では歴戦の強者でも、ああいった採集方法には「いまいち」技術が足りなかった、つまり詰めが甘かったということなのでしょう。きっとあまりにうれしくて慌ててしまい、網の返し方を誤ってしまったというのが真相でしょうね。

さて二人して、逃げるアケボノ君の後ろ姿を恨めし気に見送りながら網を片付けていると、またまたA君が、今度は「ちょっと意外」といったトーンの声を上げました。何だか少し嬉しそうです。見ると片づけようと水から上げた網の中には、体長4センチほどのトテモ可愛らしいサイズのタツノオトシゴが入っていたからです。海藻に掴まっていたものが、網を上げる弾みでくっついてきたというワケなのでした。

そして二人は顔を見合わせてニッコリと笑いました。さっきのアケボノ君のことは、もうすっかり忘れてしまったかのように。なんという「立ち直りの早さ」なのでしょうね。
「お粗末、防波堤採集」の巻でした。


謎の物体X

今日は「謎の物体X」ついて、ふたつほどお話しましょう。

一つ目は記憶の糸を辿りながらのお話です……

S先生のことは、もう何度もご紹介していますね。そのS先生、奇妙な体験をしたことがあるそうです。

ある日採集に出かけたS先生、いつものように磯を徘徊していると、水面に布のようなものが浮いているのに気が付きました。それはゆらゆらと、何処へともなく漂っていたそうです。S先生ほどのベテランならば、上から見ただけでもそれが何であるかは大抵のものなら分かるハズなのですが、これがどうも正体が分からなかったらしい。そこでS先生、その正体を見極めるべく網を伸ばしたその瞬間、彼の物体は「布」のような輪郭の中央付近をキュッとすぼめるようにして、あっという間に水没してしまった・・・・・・というのです。

この話題は何度かS先生から聞いた(本の記事だったかもしれません。このあたりがどうも記憶があやふやです。)のですが、いつも明快なS先生も、それがいったい何なのかはちょっと自信がないのか、
「あれは何者だったのかなぁ?」
というばかりでした。

でも私は、そういう「謎」のような話が大好きですから、かえって正体が分からない方が嬉しかったりしたのです。
(S先生の目撃物は何だったのか?)
そう想いを馳せるだけでもトテモ楽しかったというわけです。

実はこの話にはオマケが付いていて…
ある日A君兄弟と話している時に、この話題になったことがありました。その時お兄さんは、
「ボクはカミソリウオだと思う」
と断言したのです。私はこれには赤面。だって、ホントのところ、
(ヒラメかカレイを見間違えたんじゃ…)
なんて思っていたのですから。
私は自分の想像力の貧弱さに恥ずかしくなってしまったのでありました。

さて二つ目の「X」に話題を移しましょう。今度は最近のお話です。

A君と防波堤を見て回っていた時のことでした。眼下に、ちょうどソラスズメの色合いの物体をA君が発見。
「なんだ、ありゃ?」
ということになりました。

二人でじっくりと観察していると、面白いことに、フッと視界から消えます。
「あれれ?どこに行ったんだろう?」
と辺りを見まわしてみると、3,4mほど先に移動しています。

泳ぎ方というか、移動の仕方がどう見ても魚じゃない。かといって海老でもイカやタコでもない。小さなブルーの発光体が、ある時はあっち、またある時はこっちという感じで現れては消えるのです。

まるでUFOですね。

私たちはどうにかしてその物体を網に入れようとしたのですが、なにせ神出鬼没。結局正体は分からずじまいでした。

この2物体、正体はいったい何なのでしょうね?あなたには想像が付きますか?私は未だにわかりません。

まったく「海」というところは、面白いところですね。そう思いませんか?


無痛の怪我

海に漬かって採集をしていると、たまに変な魚を見かけることがありますね。「変な」というのは、変わった種類ということではなく、「奇態な」と表現した方が良いかもしれません。それは、怪我をした魚たちです。あなたが採集家でなくとも、海水浴などで一度はそんな魚を目撃したことがあるでしょう?もしあなたが採集家であるならば、目指す魚を追い掛けているときに、フッと視界をよぎる、傷ついた魚を見たことがあるはずです。

魚食魚にやられたのか?それとも何かのアクシデントがあったのか?中には背鰭の付近を大きく食いちぎられているものさえいます。

私が不思議でならなかったのは、そういった大きな傷を負っているにも拘わらず、彼らの多くが何食わぬげに泳いでいるということでした。

(彼らは痛みを感じないのだろうか?)
高校生だった私は、そういった魚を見かけるたびにその疑問を持つのでした。

でもしばらくしてから、
「魚は傷みを感じない」
という内容のことが書かれた本を読んだ時には疑問も氷解。
何故痛みを感じないのかという点は、ちょっと忘れてしまいましたがね…。

さて、今日は魚の怪我にちなんだお話をしましょう。

某磯で採集をしているとき、イソギンチャクの林の中にクマノミを数尾発見した私は、マスク越しにしばらくの間観察を続けていました。そして、
(どうしようかな?)
と、採集するのを躊躇っていました。なぜなら私はイソギンチャクを飼育しておらず、単にクマノミだけを連れて帰ったにしても、単独では面白くなかろうと思ったからです。クマノミはイソギンチャクとセットでなければつまらないですからね。

ところが1尾だけ可愛らしい奴がいて、私はさんざん悩んだ挙げ句、やっぱり連れて帰ることにしました。以前に「5ミリのクマノミ」のお話を書きましたが、それよりはちょっと大きいくらいの、とてもキュートな子だったからです。

何の造作もなく捕まえた子を見ると、くすんだ黒に白い線が走り、お目目がクリクリとしていて、私は食べてしまいたくなるような衝動を覚えたものでした。

それはともかく、彼を携行生簀に入れてその後の採集を続けているうちに、私は奇麗で大きな巻き貝の殻を見つけました。私はこれも何気なく携行生簀に入れました。水槽の中に飾りとして入れたら面白いかもしれないと思ったからです。このとき私はさっき捕まえたクマノミ君のことはすっかり忘れていたのです。

そしてしばらくして中継場所のバケツに携行生簀の中味をあけた時、私は自分のしでかしたことに大いにショックを受けたのでした。なぜかと申しますと、かのクマノミ君の顔面が大きく欠損していたからです。理由は単純。例の貝殻がその原因です。私がどれだけうろたえたか、想像できますか?

時すでに遅し!もはやこれまでかと半分は覚悟したのですが、子細に眺めてみると、例のクネクネ泳ぎは元気そのもの。リリースしてあげるべきかどうか悩んだのでしたが、
(怪我をさせたのは私であるから、責任取るのが当たり前)
という理由で、結局はお家に連れて帰って来たのです。

そしてその後の彼のお話をしましょうね。

数年の間彼は私を楽しませてくれました。例のクネクネ泳ぎでね。
もちろん私は彼の2度と回復することの無い欠損した顔を見るたびに思うのでした。

(ごめんよ。痛くはなかったろうけど…。2度とあんな間違いは起こさないからね。)

ハートのサザナミ

ハートのサザナミ
こんなサザナミを何かの映像で見た記憶がある。尾鰭がないのだ。
どこかの水族館の紹介ビデオだったかなぁ?よく憶えてないや。
ケガではなくて、おそらくは奇形なんだと思うネ。

Xの正体?

つい先週末(98年12月4日)のことですが、なな、なんと「謎の物体X」を採集してしまいました!これは因縁と言うべきなのか、それとも…?

今日は「物体X」の採集顛末をお話しすることにします。

その前にちょっとだけおさらいをしましょう。私が「謎の物体X」と呼んでいるのは、次のようなものです。
1.水面をプカプカ漂っている
2.魚でもない、また、イカ・タコのたぐいでもない
3.コバルト・ブルーに発光する(点滅する)
4.サイズは直径5ミリにも満たない
ま、おおむねそんなところですが、どんな生き物であるかは大体想像できますよね?
(最初に発見したときのいきさつは、前項をお読みください。)

初対面以来、私は、
(今度見つけたら、絶対に捕まえてやるのだ!)
と、採集に行くたびに彼の「X」を探し求めていたのですが・・・

さて本題。
朝から相棒のA君と一緒に防波堤巡りをしていた時のことです。天候はあいにくの曇り空。二人とも眠いこともあって、いまいち気分も乗らず、てんでバラバラにプラプラとあっちこっちのコーナーを覗き込んでいました。

「物体X」に遭遇したのは、水面を覗き込む作業を始めてから10分ほど経過した時のことでした。私の目に映ったのは、チッと青白く発光したかと思うとフッと消え、またしばらくすると今度は別の場所でチッ、そしてフッ、これを繰り返す、まさにあの「物体X」であったのです。このときの私の喜びといったら・・・!

私は小さな声で、
「おじさん!おじさん!」
とA君を呼び寄せました。
(大きな声でも出して逃げられてしまってはいけない!)
そう思ったからです。

おっとり刀で駆けつけたA君も、
「これはあの時の・・・」
と、しばしの間絶句。おじさんである私におじさん呼ばわりされたことなんてちっとも気になっていないようです。彼の目は「物体X」に釘づけです。

そして私たちは、ものの5分ほどもその発光体を眺めていたでしょうか?

やがてA君は、思い出したとでもいう感じで、
「網、網!」
と独りごちながら、網を取りに、少し離れたところに停めてあった車に向かって走って行きました。
「そんなもんじゃ、採れっこないよ!」
という私の忠告も耳に入らない様子で。

一人残った私は、
(この機を逃したらもうチャンスが来ないかもしれない!)
そう思うと、もうA君のことなんて構ってなんかいられなくなりました。そして下げていたポリ瓶を持ちかえ、地面に腹這いになって「X」を掬い上げてみようとしたのです。1回目は失敗。うまくポリ瓶の口を通り過ぎてくれません。2回目も3回目もダメ。やっかいなのは発光している間に捕まえなくてはならないことです。でも、何度も失敗を繰り返した後、やっと一つだけポリ瓶の中に入って行くのが見えました。私は大きくため息をつくと、何時の間にか後ろに立っていたA君に微笑みかけたのです。
「やった…。捕まえた・・・」

さてお目当ての「物体X」が入っていると思しきポリ瓶の中を覗き込んでみると、私はこれまた声を上げるほど吃驚しました。何故って、一つしか入っていないと思っていた「X」がそれはそれは沢山入っていたからです!これはどういうことかと言うと、あっちこっちに移動すると思っていた「X」は、実はそうではなくて、そこいら中に沢山漂っていたということなのです。つまり沢山の「X」が時間をずらして発光するために、見ている私たちにはそれが瞬時に移動するように見えたということなのです。

いけない、いけない。どんな姿なのかを話さないといけないですね。いや、ポリ瓶の中の様子もお話しないといけませんね。

この「物体X」は、ちょうど小魚の鱗片とでも言ったら良いのか、とにかく薄っぺらな生き物で、大きさは直径5mmどころか3mmにも足りません。形としては犬や猫に付いている蚤をローラーでペシャンコにしたような感じです。半透明の身体で、これがツンツン泳ぎます。それが光の加減で、時に虹色に輝くのです。ブルーに見えたのは、自ら発光するのではなく、光が当たる角度によるのかもしれませんね。

さらに子細に眺めてみると、針でつついたような小さな黒い点があります。ひょっとするとこれが目なのかもしれません。

しばらくの間、私とA君は、
「こいつはいったい何者なのだろう?」
と、ああでもない、こうでもないと議論を交わしたのですが、正直言ってサッパリわからない。意見の一致をみたのは、
「プランクトンの一種に間違いないだろう」
という点だけでした。

残念ながら、プランクトンの飼育環境を持たない私は、彼らをお家で飼育することが出来ません。代わりと言ってはなんですが、アミエビを飼育しているA君に持って帰っていただくことになりました。今ごろA君、正体を把握している頃かもしれませんね。いやどうかなぁ?誰か「プランクトン図鑑」みたいなもの持ってませんか?

せっかく採集できたとはいうものの、またしばらく眠れない日が続きそうです。

物体X

どうも最近物忘れがはげしくて困る。老化現象かな?まぁでもこんな感じだった。当たらずとも遠からず。大きさは3mmくらいで、上下にヒョコヒョコ泳いでいた。これが光線の具合で光るようだ。防波堤の上から見たらコバルトブルーだったが、ビニール袋に入れて透かして見たら虹色に輝いていた。海ホタルはもっとミジンコっぽかったから、違う奴だと思うんだけど。駄目だ、自信がない…。


防波堤ギャラリー

磯採集ではあまり経験がないのですが、防波堤採集のときにギャラリーに囲まれることがよくあります。
(どうしてこんなに人が集まるのかな?)
なんて思うこともしばしばなのですが、周りの人の目には、私たちの行動が相当奇異に映るのでしょうね。そう考えてみると思い当たるふしはいくらでもあります。いくつかを挙げてみましょうか?

先ず、

・朝早くから防波堤をうろついている。

まぁこの辺はそんなに怪しいものではないですな。事実、釣り人ならその辺に沢山いらっしゃいます。しかし、次に

・釣り人のようでいて、魚を釣っている様子が微塵もない。
・コーナーで一点をジッと覗き込むことが多い。

この辺りになるとかなりアブなくなってきます。

極めつけは、

・まるでゴミを漁っているようにしか見えない。
・採れた獲物を酸素詰めしてデジカメで写真を撮っている。

というところです。そんな人たちなんて、まずいませんもの。

いちおうこの私にも羞恥心というものがありますから、多少は人目を忍んでいるつもりなのですが、珍しい魚がいたりすると、
「いたいた!いたいた!」
なんて大きな声を上げたりします。そんな時側にいる人が、
(何事か?)
と思うのも当たり前ですね。

そうなると自然の成り行きで、ゾロゾロと人が集まってきて、
「何やってるんですか?」
と聞かれることになります。

実は私はこの時大いに困るのです。いいえ、困るというより、嫌なのです。何故かと申しますと、それからの質問に答えるのが面倒臭くなってしまうからです。だって彼らの質問の大半が、
「それ何という魚ですか?」
「どうやって持ってかえるのですか?」
或は、
「どうやって飼うのでしょう?」
また、
「餌は何を上げるのですか?」
というもので、中には、
「それ、食うんですか?」
なんて聞いてくる人もいるのです。

もちろんギャラリーの人たちは、心底本当のことが知りたくて聞いてくるワケですが、私たちは早く次の場所へ行きたくてウズウズしているのです。説明するにしても、半分うわの空になってしまいます。立ち止まる時間さえ惜しいという心境なのです。そんな状態で質問に答えても、相手の人にはかえって失礼ですものね。色々なことをお話してさし上げたいのはヤマヤマなのですが・・・

だから私は側に人が来たとき、ただひたすら祈るのです。
(どうか何も聞いてくれませんように!)

そしてその願いは大抵はかなわないのです。特にギャラリーが子供さんだったりするとね。うふふふふ。

コーナー探偵団

コーナーばかりを覗き込む…

ぼくらはコーナー探偵団

不思議な「透明キュウリ」

今回も魚の話ではありません。またもや謎の生き物の話です。興味のない方は、お引き取りくださいますよう。あはは。

それは「掲示板」でも少し話題に上った「物体X」を採集した直後のお話です。

さて、一見穏やかに見える海面であっても、実際そこには潮の干満や風の影響を受けて、複雑な潮流が存在するようですね。そう思うのも、私たちが「物体X」を採集した後に、吹き溜りみたような場所の水面を覗き込んでいると、水底やあらぬ方から実に雑多の生き物たちが浮かび上がったり、漂って来たりするからです。その様が、私にはいかにも流れに押されてくるように見えるのです。

例えば大きな大きなヨウジウオ。体長が20センチもあろうかという大物が、フワ−ッという感じで浮かんできます。最初私はこれがヨウジウオであることが分かりませんでした。
(ヤガラの幼魚かな?)
と思ったくらいです。また、尻尾に穴の空いたソウシハギ。大きさは5センチくらい。そしてハナオコゼ。これらは流れ藻の下に隠れていたのが出てきたりします。ハナオコゼなどは、例の「足」(いや、腕かな?)をパタパタと、もがくようにして泳いでいます。さらに「縦」に静止している変な魚。(正体は分からずじまい。因みにこれはへコアユではありません。)

よく目を凝らせば、もっと別の発見が出てきたかも知れませんね。

この「かも知れない」というのには、実はワケがありまして、私たちは恐ろしいほどに興味深いものに心を奪われて、他のことなんかに気持ちが行かなくなってしまったからであります。それが今回のお話の主人公です。

芥から少し離れた場所にいたその物体は、体長が約5センチ。透明な、直径2センチくらいのものでした。自ら動くこともなく、ただドベーッと水面に浮かんでいるだけの情けないほどに「無芸」な物体です。

こういうものを捕まえると言ったってそれは至極簡単・・・と思うでしょ?ところがギッチョン、実はコツみたいなのがあるんですよ。例えばクラゲの採集には一つの鉄則があります。それは決して目の粗い網で掬ってはイケナイということ。釣り用のテグス網なんかで掬おうものなら、自重でその身がちぎれてしまうからです。分かりやすく例えると、生卵の白身を掬うような作業だと思えば良いでしょう。一番良いのは何かの容器で海水ごと掬ってしまうのが良いのでしょうね。

ともかく以前にそのような失敗を経験している私たちは、その身を崩さないように慎重に捕らえました。この時私はそれが生き物であろうことなんかチットモ想像しておりませんで、水から上げたその姿からは、トテモそんな想像などできなかったからです。

ゼラチン状の透明な「体」、透かして見ると芥子粒大の無数の赤い「種子」のようなもの・・・。おまけにイボイボ(うーん、こりゃエッチだ!)まで付いてて・・・。そう、透明なことを除くと、あの野菜のキュウリによく似ていて、生物的な躍動感みたいなものは、まったく感じられなかったからです。

一方のA君はというと、
「生き物ではない」
と主張する私に反論しうる十分な確信がないのか、いつもの快刀乱麻の冴えが見られません。

結局その場では結論が出ず、私たちは、
「とにかく持って帰って調べよう」
と、それを大事に酸素パックしたのでした。

不思議なことに気が付いたのはその翌朝のことです。彼の物体の袋を改めていたA君が驚きの声を上げました。
「げげげっ!消えている!」
私も確認してみましたが、やはりいない・・・。どうもとろけてしまったらしいのです。少し濁りを帯びた袋の中の水には、例の「種子」らしきものが散らばっているだけです。いったいどうしたということなのでしょう?
水温にも気を付けていたし、扱いには十分な配慮をしたつもりだったのですが…。

しかしこういう結末で終わるというのは、どうも面白くないものですね。私は随分とガッカリしたのですが、思いはA君も同じです。そこで私たちは、再び採集できる保証もないのに、もう一度昨日の場所へ行ってみることにしたのです。そして・・・

私たちはまったく運良く、そいつを採集することができたのです!

でもね、悲しいことに、やはり輸送がうまく行きませんでした。この物体は私たちの脳裏にだけその姿を残し、跡形もなく消滅してしまったというワケでした。

おっといけない、その物体ですが・・・

それは
「ヨウラククラゲ」
というれっきとした生物でした。

やっぱりA君の予想は正しかったのですね。
さすが!

ヨウラククラゲ

なんとも変なクラゲだ。透明な体にイボイボが付いてて、見るからにエッチ。コードを付けたら大人のオモチャになっちゃう。こんなの採集して喜んでるんだからやっぱり私たちは変人かな?さてまじめな話に戻ろう。体長は5センチ、直径は2センチほど。意外と固くて、手のひらに載せてもデレンとすることはなかった。図鑑によると群体性らしいが、そんなに沢山いるようには見えなかった。「はぐれ」だったのかもしれない。中央に赤く見えるのは「種子」のようなもの。いったい何なのだろう?


群体性ということについて
私は「群体性」ということについて、“群れて生活しているもの”だと想像したのだが、コレは間違い。いつかあつもりさんが掲示板で説明してくれたとおり、“浮袋や触手などに役割分担をしている個体が、外見上はひとつの個体を作っている”ことを指すのだ。みんながよく知っているカツオノエボシなんかも群体性のクラゲなのだ。


忍者ハナオコゼ

変なやつ!どう見たってクセモノだ!

可笑しいったらありゃしない。興味がわいてきましたか?楽しいよん!

忍者!ハナオコゼ

今シーズン最後の採集でGetしたハナオコゼ。生態がトテモ面白いので、我が家での暮らしぶりをご紹介します。

防波堤で見つけたのは2尾。一つは2センチほどの可愛らしいサイズ。もう一つはそれよりも一周り大きな個体でした。私としては、もちろん小さい方を連れて帰りたかったのですが、まったく迂闊なことにその姿を見失ってしまいました。従って、おうちに来ていただいたのは大きい方です。

心の中では、
(大きいのは可愛げがないから嫌だな)
なんて思ってたんですけどね。でも、
(ま、久しぶりに遊んでみようかな?)
という気持ちの方が勝ってしまったということです。

皆さんはもうすでにご存知でしょうが、このテの「魚食魚」は、自分の体の2/3くらいまでの魚なら平気でパクリッといってしまいます。だから私はいざ彼を水槽に入れるとき、大いに悩みましたね。だって、私の水槽はおチビちゃんがメインの水槽ですからね。苦労して捕らえた彼らを一瞬のうちにゴックンなんてやられてご覧なさい!

私はさんざん迷った挙げ句、魚たちの入れ替えを行いました。食べられそうもなくて、かつ折りあいの良いメンバーでかため、その中で飼育しようとしたのです。主なメンバーはサザナミフグ、サザナミハギ、ノコギリハギといったところでした。

結果は上々、皆仲良くやっています。でもやはり新参者であるハナオコゼ君、いささか居心地が悪いらしく、あっちの隅、こっちの穴と、居場所が定まらない様子。姿は確認できるのですが、落ち着かないせいもあって、何だかいつも水面の方をつまらなさそうに見つめるばかりでした。

そんな状態が続いたある日のこと、最近バス釣りにハマっている息子に、
「おい、ハナオコゼがお腹空かしてるから、ヌマエビ採ってきてくれ」
と頼んだところ、どうでしょう?彼はバケツに沢山のそれを採ってきてくれたのです。(なんといってもこの種は、生餌から餌付けるのが一番ですからね。ヌマエビ君には可哀想ですが、それもしかたがありません。)

そこで私と息子は早速ハナオコゼに与えようと、採ってきたヌマエビの中から弱っているものを選って、水槽の前に行きました。ところが最近の定位置となっている場所に彼がいません。
(あれ?いったいどうしたのかな?)
と水槽の中を見渡したとき、私は100年以上もタイムスリップした人間のように叫んだのです。
「く、曲者!」
って!

なぜかって?だって彼は水中に立っている底面フィルターのパイプの上部と水槽のガラス面に両手を突っ張って隠れていたからです。その姿は、時代劇でお馴染みの「忍者」そのものであったからです。いやはやその姿の滑稽さといったら、もう私と息子はお腹を抱えて大笑い。ちっとも格好良くないのに、雰囲気だけは怪しいのですからね!

さてそれから彼はどうしたかというと、両手を不器用に動かして水をかき、ヌマエビのところにようようとたどり着くと、まるで匂いを嗅ぐようなポーズをとった後、あっという間にそれをパクリとやったのでした。そしてもといた場所へとノソリノソリと戻っていったのです。

それ以来、彼はいつも忍者の格好をしてそこにいるのでした。きっと、
(ここにいれば、餌が降ってくる・・・)
そう思っているのかもしれませんね。

そしてもうひとつ面白いことがあります。時々息子がハナオコゼを観察しながら、
(こら、くせもの!)
そう話しかけていることです。

ハナオコゼも面白いけど、どうしてどうして息子もなかなかの役者であることに気付いた私でした。


イロブダイが笑った

キンチャクダイの仲間には、成魚と幼魚では体の模様がまったく異なってしまうものがいます。これは皆さんもよくご存知ですね。代表的なところではサザナミヤッコやタテジマキンチャクダイなんかがそうですね。ところが、ベラやブダイにも同様のものが沢山いて、とりわけイロブダイなんかはその典型であると言えるでしょう。そして、どの場合でも共通して言えることは、
「色彩的には幼魚の方が断然に奇麗だ!」
ということです。

(もっともそう思うのは人間様だけであるのでしょう。魚同士の場合だと、あの幼魚の美しさも違って見えるのかもしれませんね。
「おいおい、こりゃまた随分と汚い子だねぇ!」
とか、
「ほんとだ、妙に毒々しいね。食っちまったらお陀仏だなんてことに?くわばら、くわばら・・・」
なんて会話をしてたりして?)

さてそんな例にもれず、イロブダイの幼魚というのが実に可愛らしい。配色の妙というか、赤とアイボリのコントラストがこれほどまでにウマく均衡がとれている生物なんて、地球上のどこを探してもいないんじゃないかと思いますね。

加えて私の心を捕らえて放さないのがその表情です。
(魚にもちゃんと表情なるものがあるのだ!)
そう思いたくなるほど、まるで人間のような表情を見せるときがあるからなのです。

今から数年も前の話になりますが、某磯でこのイロブダイの幼魚に遭遇したことがありました。大きさは3センチくらいでしたでしょうか?そのときの彼は、私のことには全然気が付かない様子で、ちょっと頭を傾げながら、あちらこちらの岩肌をつついておりました。

私は体を水没させたまま岩の上に腹這いになって、しばらくの間観察をつづけておりました。それからちょっとして網を持ち代え、採集の態勢に入ったのです。すると彼は私の動きに気がついたようです。傾げた頭の角度をさらに水平にして、キョロッと私をにらむしぐさをしたのでした。

(いよいよ戦いの始まりだ!)
私は一瞬のうちに周りの地形を再確認し、追い込むべき場所をイメージしました。そして私とイロブダイとの間隔は徐々に狭まって行ったのでした。その間、彼は、
「お前がボクを追っているのは百も承知サ!」
とでも言いたげに、へらり、ひょろりと網から遠ざかって行こうとします。ときどき振り返るように流し目をくれながらね。

その様子はまったく小憎らしいほどで、事実私は馬鹿にされたように感じられて、かなりカリカリしておりました。そしてやっとのことで逃げ道を断ち、さて最後の仕上げというときになっても、彼は半ば安心しきった私の心をあざ笑うかのようにスルリッと身を翻し、狭い隙間を縫っては私との距離を広げて行ってしまうのです。

結局のところ、術中に陥ってしまったのは私の方で、ついに私は彼を捕まえることができなかったのです。

もう手の届かないくらいに、文字どおり水をあけられてしまっては、さすがのsyunさんももうお手上げ。私はあきらめきって立ち尽くすほかはありませんでした。

そして彼ときたら、
「ケケケのケ!」
振り向きながらそう笑ったのでした。

でもね、ちょっとはカリカリきていた私なのですが、いざ戦いを終えたあとは快いけだるさが残っただけで、不思議と「悔しい」だとか「憎らしい」という思いがしませんでした。

(何故なんだろう?)
その時を振り返るたびに、もう一度自問してみるのですが、やっぱり答えはいつも見つからないのでした。

笑うイロブダイ

「ケケケのケ!」とイロブダイは笑った…ように思う。
そしてお腹を見せて逃げて行った。

謎の物体Y

「謎の物体」シリーズ。Xの次は「Y」です。

某ショップで購入したライブ・ロックには大変小さなウミキノコが付いておりました。もちろん私は「ライブ・ロック」として買ったワケで、キノコはまったくの「余録」であったのです。
「シメシメ!うひひ!」
ビニール袋を下げて帰る私の顔は、相当ダラシなかったことでしょう。

最近ではこういうパターンがとても珍しくなりましたね、キノコでもトサカでも、それがどんなに小さなものであっても、そういうものが付着してることで
「ライブ・ロック ○○付き!特価XXX円!」
という別の商品に変身してしまうのですから・・・。

さて、今日のお話の主人公はキノコではありません。そのライブロックに潜んでいた、とにかくユニークな生物のお話です。

今でこそ本格的な「ベルリン実践者」である私ですが、その頃は従来方式で無脊椎動物を飼育しておりました。水槽自体も小さなものだったのですが、徐々に生物やライブ・ロックを追加して行くと、それなりに立派に見えて来るもので、それはそれで十分楽しめるのでした。魚を飼育するのとは違った「静的」な面白さを感じた私は、時の流れを忘れてしまったかのようにジッと観察にふけるようになりました。特に「余録」のはずのものが、やがて少しずつ大きくなって行くのに気付いたりすると、妙にうきうきした気分になったりするのです。

いつものように観察を続けていた日のことです。私は面白いことに気がつきました。例のライブ・ロックの例のキノコの根元に、白い糸状のものが水流の加減でたなびくのを確認したからです。そしてその「たなびきかた」というのがトテモ妙なのです。どうも水流のせいだけではない、何か自らの意志で動いてるフシがあるのです。釣り竿を不規則に振り回してる、そんな感じにも見えました。私はコイツの正体をしっかりと把握したくなりました。

で、なおも目を凝らして見てみると、次の点がハッキリとしました。それは、ゴカイやケヤリなどの環形動物よりははるかに高等な生物であるということでした。そう判断したのは次のような理由からです。
・白い糸状に見えたものには「関節」がある!
・先端には「ハサミ」が付いている!
そしてそれは小さな穴の中から突然に現れ、一瞬のうちに周りの岩肌を数回「つまむ」しぐさをして、すぐに引っ込んでしまうという動きを繰り返すのです。それは目にも止まらぬ早業です。おそらく半秒ほどのものに違いありません。

さぁ、私にはコイツの正体が分からない。A君に聞いたって、
「うーむ。世の中には不思議な生き物がいるもんだ。」
というばかりで、正直なところアテにはなりません。

(それでは)
と、当時からベルリン方式を実践しておられた「小岩の占い師」M師に相談してもみたのですが、
「そりゃスゴイ動体視力だ!」
と、肝心の物体のことよりも、私の視力の方が気に掛かるようです。

結局いまだに正体がワカリマセン。

幸いなことに穴から見えた「腕」の様子は脳裏に焼きついてます。以下の絵がそれです。だれか正体教えてくださいな。

物体Y

一つの穴には一つしかいないらしい。ヒョイッと出てきて周囲をまさぐり、ヒョイッと隠れる。これが一瞬の早業。これをしょっちゅう繰り返している。一つの岩に無数に入っているらしくて、あっちこっちで同じことをやってる。一度この岩を叩き割って正体を見極めようとしてみたのだけれど、怖くなってヤメた。感じとしてはエビ、カニ、シャコの類だね、こりゃ。ハサミがY型、だから「Y」。

後日譚 Yの正体----------

2005年の春のこと。国立科学博物館の武田正倫先生とご一緒する機会に恵まれ、これ幸いと概略上記のお話をしましたところ、
「最近になってわかったことなのですが、それはテッポウエビの仲間ですね。」
との回答をいただきました。アンテナ状のものは、ハサミ脚の次に長い脚なのだとか。となると、次に気になるのはその全体像ですが、残念なことに仕事に取り掛からねばならず、本件についての話題はチョン。でもまあ御安心ください。コヤツを専門に調べている先生もいらっしゃるそうで、案外近いうちにお目にかかれることでしょう。

それはともかく、
「しかしまあ、さとうさんもよく気がつきましたね。というか、ふつうそこまで一生懸命には観察しませんよ。」
と感心されたのには弱りました。だってボク、ヒマに飽かせて観察してただけなんだモン。

(2005.04.26)


懐かしの夢「素晴らしい世界旅行」

唐突ですが、私の正体は普通の会社に勤める普通のサラリーマンです。普通と言っては少し語弊がありますね。かなりな「落ちこぼれサラリーマン」というのがその実体です。毎朝満員電車に揺られ、片道2時間近くをかけてイヤーな会社に出勤です。たまには袖擦りあう人と喧嘩をしてみたり、うっかり一駅乗り過ごしてみたり・・・

職場に着いても、要領の悪い私はドタバタの連続ばかりです。
いつも、いつも、
(自分はどうしてこんなにダメなのだろう?果たして私にはこの世に居続ける価値があるのだろうか?)
そんなふうに思う毎日なのです。

あはは、ほんとだよ。でもね、この趣味となると話は別。決して裕福ではないのだけれど、シーズンに入ると、ほとんど毎週のように海に行っちゃう(だから裕福ではないという御説もありますが)。