やっぱり「目」

お約束どおり、先日訪れたX島での採集顛末記をお話することにしましょうね。今日は先ずサザナミヤッコの巻。

すでに述べましたように、私達お気に入りのX島の磯は大変に長大な磯で、そこには無数と言っても良いほどのタイド・プールができます。大きいのは25mプールと同じくらい、小さいのに至ってはお風呂サイズまで。そしてそこには、これまた私達お気に入りのベラ、スズメ、ハゼなどが取り残されているのです。

私達はそれらのプールを片っ端から覗いて歩くのです。が、無意識のうちにも、
(先ずはアソコのプール、次は向こうのプール)
という具合に順番が決まっているのでありまして、これはまあご飯をいただくときに箸の順番が決まっているみたいなもんでしょうか?面白いものですね。

ともかくもその日、一番最初のプールを覗いておりましたところ、岩の裂け目の天井付近、隙間もないくらいに石灰藻に覆われたそこに、赤くてところどころに白い小斑のある魚がへばりついているのを私は見逃しませんでした。
(あ、チゴベニハゼ!)
丁度3cmくらいの、水槽に収容するにはもってこいのサイズです。

私は早速に網を構えて捕獲態勢に入りました。が、少し不安だったのは、そこが「天井」であったこと。状況的にはやや当方に不利なのですね。もう少し傾斜があれば楽だったんです。水平なところに逆さに張りついておるわけですから、最も楽な方法としてはこちらも逆様になっちまうことなのですが、それは地形的にもチョイと無理な話でした。

さらに目を凝らすと、裂け目は恐ろしく奥まで続いているようで、真っ暗な中に、シマスズメだかなんだかの鯛ほどの大きさの姿が見え隠れしておりまして、別に私に害を及ぼすワケもないのですが、これがとにかくデカくて恐ろしげ。
(奥から変なヤツでも出てきたらどうしよう?)
こわがりのsyunさん、少々ビビってしまったのでありました。

そんなわけで、私は恐る恐る網を近づけてみると、このチゴベニ君、目の先に網が来ても一向に動じる気配がありません。そこで安心して最後のひと押しをしようとしたところ、案の上、ヒョイッとかわして小さな穴に逃げ込んでしまいました。でもこれはいつものパターンなので、私の方も落ち着いたもの。少し待つことにしたのは言うまでもありません。
やがて再び現われたチゴベニ君、こちらをからかうように天井から私を見据えています。
(見つけてしまえばコッチのものサ)
私には慌てる理由などありません。落ち着いてやればgetできるのですから。

私は大きく息を整えて、さあもう一度と気合を入れようとしました。と、その時です。奥の薄暗い壁を這うように紺地に白の縞模様が移動をして行きます。
(あやや!サザナミ!)
私の頭の回転は一瞬間、停止をしました。というか迷ったのです。そう、
(どっちを採るべきか?)
です。

さてこういう場合、皆さんはどうするでしょうか?私?もちろんサザナミです。めったにヤッコを採ることのない私にしてみれば、やはり選ぶのはこちらでしょ。ふふふ。

というワケで、目標を定めなおした私は、不利な態勢ながらも20分ほどの格闘の後に無事これを捕まえたのでありました。網の中の「藍」の魚。やっぱり良いものですね。

それはともかく、あの陽の届かない薄暗い穴の中で、我ながら良くも見つけたものです。やっぱり「目」、これを痛感した次第。syunさん老いたりといえども、まだまだ通用する「目」があるようです。

おっと、チゴベニハゼもちゃんと捕まえましたからね、ご安心。



中央の水の見える左手あたりがスゴク奥深くて、体を半分以上入れないと手が届かない。息も続かないし、自由がきかなくて困ったけど、なんとか捕まえた。
このように写真を撮っておくと、あとで色んなことを思い出せる。「使い捨て」で構わない、海に行くときはカメラを持って行こう。

(00.06.09)

Proは違う・・・ガラパゴスからの手紙

私がDr.Gからメールをもらったのは今から2年ほど前のことでした。

「syunさんとやら、こんにちは。日本には随分と面白い『魚』の楽しみ方があるもんだねえ!いやはや、十分に楽しませてもらいました。ワンダフォー!」

そんな書き出しで始まった本文(一応じぇんぶ英語、当たり前と言えば当たり前)・・・。Dr.Gがどういう経緯で私のHPを知ったのかは知りません。しかし彼は私のHPのメイン・コンテンツである「採集のpage」にひどく興味を抱いたらしい様子でした。

確かに私が既に色々な場所で申し上げているように、この日本で、観賞や観察を目的としたホーム・アクアリウムレベルでの「魚採集」が定着しているということは、欧米の人から見れば、まったく不思議なことかもしれません。そんな趣味があるなんて、おそらく先進諸国の中では、我国だけではないでしょうか?

改めて考えてみると、米国では東海岸も西海岸もそのほとんどが寒流に洗われており、また欧州も北側は寒流の海です。採集の舞台となる海に観賞向きの魚がいないという現状がその理由の一つであることは間違いがないことでしょう。また一方で地理的(地形的?)な理由もあるに違いありません。仮に欧米の海が採集に適した場所であったとしても、海の近くに住んでるならともかく、
(よっしゃあ!明日は大潮、海行くぞ!)
ということにはならないハズです。飛行機で魚採りに行くなんて、よほどの資産家でなければできない芸当でしょうから。ましてや持って帰って飼うなんて趣味が、一般的に成り立つでしょうか?

そういった意味で我々はスゴク恵まれているということになりますね。林立するビルの間の高速道路を通り過ぎ、1時間、2時間で着いた海ではキレイな魚が採れる・・・。ああ、日本って、なんて素晴らしい国なんでしょう。

さてまたしても前書きが長くなりましたが、そんな具合で始まったDr.Gからのメールは次のように続きました。
「私はカリフォルニアの大学で marine biology の研究をしているんだけど、 実はちょっと御願いがあるんだ・・・」
で、これを読み進んでみましたところ、その「御願いごと」というのは、私にもチョイと苦労をすればできることなのでしたが、まあ色々と事情があって、次のように返信をしたのでした。

「professor にお褒め戴き、大変に恐縮しておりますデス。さてその御願いでしたらきっと叶えて差し上げることができるでしょう。でも少し待ってくれませんか?その時がきたら、こちらから連絡をいたしましょう。」
するとその翌日、Dr.Gからの返事が来ました。
「おお、それは楽しみだ。待ってるからね!」

それから数ヶ月後のこと、Dr.Gの希望を叶える日がやってきました。そして私はM県のT先生に相談のうえ、無事にことを終えたのでした。(これはHさん、Sさんという方のご協力があって出来得たことです。お二方には改めて御礼を申し上げたいと思います。)

さて喜ぶDr.Gは、お礼にとカリフォルニア沿岸魚類の図鑑などを送ってくださり、私は私で、近場の様子や南の島の遠征成果などを教えて差し上げるといったことを続けておりましたが、2000年が明けたちょうどその時のこと、私にチョイとしたイタズラッ気が起きました。普段は貰ってばかりのメールを、こちらから出してみようと思ったのです。そこで私は New Year のメールを彼に送ってみることにしました。

ところが2日ほど経っても返事がありません。まあ私自身も期待をしていたわけではなかったのですが・・・。と、メールを出してから4日目のことでした。彼から返事が来たのです。そしてその内容というのは・・・。

「やあ、syun!New Yearのメールありがとね。今私がどこにいるか分かるかい?ha-ha!ガラパゴス。ダーウィンの島で採集サ!」

あちゃ〜、やられた!
学術目的とはいえ、やっぱりPro。スケールが違いますね。

生憎とガラパゴスでの採集成果を聞きそびれた私でしたが、そのうちメールを出して、その時のことを聞いてみることにいたしましょうね。

(00.06.13)


魚採りは平日に限る!-前編-

どこといって取り柄のない無職の私ですが、それでも声をかけてくださるT氏というお方がいて、Y市にある某事務所へ週に3、4度お手伝いに通っております。ありがたいことにPCは使いたい放題のお約束。無論時間中に私用の使用はやりませんが、お昼休みにメーラーにアカウントを設定してみたところ、いきなり飛び込んできたのがSyujiさんのメールでした。
「今年最初の出撃で、アケボノ、チョウハン・・・。明日も出かけます。」
更にはSanさんの追い討ちをかけるような、
「明日は私も行こうと思っています。」
というメール。

コレにスッカリ慌ててしまったsyunさん、早速にT氏にお願いをしたのでアリマシタ。
「あ、あの、明日急用が出来まして・・・」
私の言葉が少し小声であったのはご想像のとおりです。そしてもちろんお二人に返事を出したのは言うまでもないことでした。
「明日の段取り教えてクダサイ。」

翌早朝、車を走らせて集合場所の漁港に着きますと、いやはやお二人とも既にご出勤。私が近寄るのにも気付かずに、一心にコーナーを覗き込んでいます。とSyujiさんの方が私に気が付きました。私達はとりあえず目で挨拶。Sanさんはというとコーナーで網を操っています。ふと見ると、プラケースの中には小さなアケボノ・・・。おお、もう既にgetしていたのです・・・。

しかし平日の早朝だというのに、まったく滑稽なことです。回りには誰もいないんですよ!しかもその格好ときたら、ジッと一点を見つめたり、またあるときは腹ばいになったりしてるんですからね(写真)。朝の挨拶にしたってたいそうヘンテコです。悪びれる風も無く、


「いやややや、良い天気ですなあ!平日にこの天気。採集日和とはこのことですな。」
ときたもんだ。・・・って、私も人のことは言えませんけどね。

ともかくも、その場所で何尾かのチョウチョを捕まえた私達は隣の磯へと場所替えをしました。それから更にA漁港へと向ったのですが、そこで思いがけない収穫に狂気乱舞の有様となることなんて、この時までは微塵も想像してはいなかったのでした。

さて、A港に着いた私達は、鏡のように穏やかな水面を覗き込んでおりましたが、ふと見覚えのある物体に気が付いた私は、ちょっと大きな声で叫んでしまいました。
「ああ!イトヒキアジがいるじゃん!」
私は最初
(アンドンクラゲかな?)
って思ったんですが(実際アンドンクラゲに擬態しているという説もあるんだそうですね。これはA君の話)、それはまさしくイトヒキアジであったのです。しかもペア。だと思ったら、5,6尾の群れ!

私の声に気付いたSyujiさん、Sanさん、
(どうしようかな?)
って顔つきです。でもそれもホンの一瞬でした。そばにあった網を手に取ると、彼らを追い始めました。私も加勢に出ます。幸いなことにそこはコーナーです。もしかしたら採れるかもしれません!

私は過去に何度かこの魚にお目にかかっています。一度は南の島の某漁港。さらにはいつも行く漁港・・・。それでも採ったタメシがありません。優雅に泳ぐ割には、結構素早くて、「追っかけて採る」という魚でないことはその経験で十分に知っておりました。だからこの日も次のように思っていたのです。
(ま、九分九厘駄目だろうね・・・)

ところがです、3人で挟み撃ち攻撃を仕掛けたところ、意外に容易にコントロールできることに気が付きました。
(ももも、もしかしたら?)
私の胸はいやがうえにも期待に膨らみました。
(こ、コレは!い、イケルかも知れない!)

(00.06.23)

魚採りは平日に限る!-後編-

そして3人の網が徐々に距離を狭め、いよいよ最後の仕上げ!という段まで行ったのですが・・・。おお、彼らは実に器用に、スルリとばかりにわずかな隙間を掻い潜り、港の中ほどに向って逃げてしまったのでした。

「あちゃ〜!お、惜しい!」
3人は同じようにため息をつきました。逃げた2尾はだんだんと岸壁を離れて行きます。

(どうしよう?)
またまた3人は顔を見合わせました。諦め切れない気持ちが二人の表情ににじみ出ていました。しかし、少し時間をおいてみたところ、なんと再び彼らが近づいてくるではありませんか!

ここで再び挑戦が始まりました。でもさっきのことがあったからか、かなり警戒をしている様子で、結局は、この挑戦も駄目でした。しかも彼らときたら、まるで私達をあざ笑うかのように、視線の届く範囲で悠然と泳いでいるのです。

そしてなおも諦め切れないSyujiさん、ここで思いきった作戦に出ました。漁師さんに怒られるのは承知の上、足元にもやっていた誰もいない漁船に乗り込んで、そこから追ってみようとしたのです。

先ずSyujiさんがミヨシの舳先から、次にSanさんがコーナー側から、そして私が岸壁サイドからと、3方向から徐々に網で包囲して行き・・・・・。

その間、私達は小声を掛け合いました。
「そう、そう、そっと、そっと・・・」
「もうちょい右、右・・・」
「よおし、よおし、いいぞ、そのまま、そのまま・・・」
「そ、そう・・・・」
そして!私とSanさんのひと押しで、なんとペアごとSyujiさんの網にご用となったのでした!

この時の3人の興奮!
Syujiさんの目は「点」になっちゃって、
(何事が起こったのか?)
という表情。
Sanさんも、アングリと口を開いたまま。
そして恥かしいことに、私に至っては、その場に網を放り投げて、
「や、やった、やった!」
と踊りまくる始末。ほんと地団駄踏んで喜んじゃったんだから・・・。
後で話したのですが、TV中継でもして欲しかったくらいの大騒ぎでしたよ。

いやあ、楽しかったです。珍しい魚を採って嬉しく感じるというのはもちろん普通のことなんですけど、お腹を抱えて笑ってしまったのは、これは始めてです。何故なんでしょうかね?高笑いとはちょっと違う。照れ笑いに近いかな?物事が予想に反してウマク行ってしまった時って、こういう笑いになるのでしょうか?

さて私がこの一件で感じたことが二つあります。まず一つは、
・そうか!こういう採り方もあったんだ!
ということ。そしてもう一つは、
・やっぱり魚採りは平日だね
ということ。何故かと申しますとネ、そんな大騒ぎなんてのは、人気のない漁港でしかできないから・・・ということなのです。

Syujiさん、Sanさん、ごくろうさまでした!

おおいけない、肝心なこと忘れてました。イトヒキアジを複数採集したら、別々にするか、残酷なようですが、ヒレをcutしてあげましょう。こんぐらがってしまって、弱らしちゃっちゃあ可哀相ですからね。ダイジョブ。それなりの水槽で飼ってあげればヒレは伸びるのです。

(00.06.27)

レントゲン水槽

我が朋友A君という人はなかなかに「アイデア・マン」でありまして、しばしば、
「う〜ん!これは!」
と唸ってしまうような面白いアイデアを提供してくれます。しかしまあ「アイデア」って言ったって実は他愛もないことでして、例えば空のフィルムケースに沢山の細い棒を差し込んで「模造ガンガゼ」を作ったりとか、ビニール・コーティングされた針金を適当に折り曲げてタツノオトシゴの「止まり木」を作ってみたりといった程度のことなんですけどね。出来映えだって子供の工作に毛の生えたようなものであるワケなんですが、でも実際に「模造ガンガゼ」の棘の間にプテラポゴンの稚魚が入っていたり、タツノオトシゴが「止まり木」に尾を絡ませているのを見たりすると、やっぱり私は、
「う〜ん!」
と唸ってしまうのですがね。

さて最近彼が見せてくれたものの中に、自称「ひさびさのヒット作」なるものものがあります。それは「クラゲ・フィルタ」とでも呼びましょうか、色の付いた下敷きやセロハンを透過させた光を水槽に照射させて楽しもうというのがそれでした。

今から1ヶ月ほど前のことでしたでしょうか、A君の「実験室」を訪れると、見なれた水槽に青い下敷きが「蓋」として乗っかっておりました。
「おや?何かまた新しいことでも始めたのかい?」
私は好奇心からそう尋ねました。するとA君、
「ウン、クラゲに色んな光を当てて楽しんでみようと思ってね。」
言われて水槽を覗き込んでみますと、おお、確かにミズクラゲが1個体、フワフワと水に漂っています。彼は少し鼻を鳴らして続けました。
「ホラ、今は青だろ?次は緑を当ててみようか?」
そう言いながら青の下敷きを緑色のそれに取り替えました。すると、今まで青い色を浴びて水色っぽく見えていたミズクラゲが、ちょっと変わった趣の色合いになりました。
「あは、こいつは面白いや。っていうことは、まだカラーバリエーションがあるってことかい?」
「そうさ、こんどはピンク色。」
と再び下敷きが取り返られると、今度は淡いピンク色に変わります。

無機質な印象の無色透明なクラゲが、当たる光の種類によって色を変えるという有様は、これは見ていて大変に神秘的なものでして、私はしばらくの間、自分で下敷きを取り替えてはその様子を楽しんでおりました。が、その観察もそうそう長続きするものではありません。またA君もそんなことはとうに予想していたらしく、今度はクラゲ水槽とはちょっと離れたところに置いてある小型の魚水槽の前へと私を誘いました。

「クラゲばっかじゃ面白くないだろう?これはサ、水槽の向こう側に青いフィルムを貼ってみたんだ。どうだい、これも雰囲気が変わるだろ?」
なるほど向こう側から射し込む強烈な太陽光は、青のフィルムを通ることで幾分やわらげられるようで、これはこれでまた興味深いものでありました。ただ中に居るのが、しばらく以前に採集してきたカレイの赤ちゃんなワケで、あの地味な魚に青のぼかしが入ったところで何の変化もないのでして、私は心の中で次のように呟いたのでした。
(あのサあ、確かに水槽の雰囲気は変わって良いんだけどね。どんな魚を入れたら良いか?ってことも考えるべきなんじゃないの?)

さていつものようにコーヒーを飲みながら、
「今度は何処に行こうか?」
「今年はどんな年になるのかね?」
いつものようにそんな話を繰り返して、さて私が帰ろうともう一度魚水槽に目をやったときでした。今まで底に張りついていたカレイの赤ちゃんが、背面のガラス面へと移動を始めました。エサを貰えるか或いは逆に警戒したのかもしれません。そして青いフィルムのところでピタリッと停止をしました。

私はここで大きな声で叫んでしまいました。
「あ、カレイのレントゲン!」
そうです。カレイの赤ちゃんの姿が、青いフィルムを通して射し込んで来る太陽光のせいで、ちょうどレントゲン写真のように見えてしまったというワケです。私はスッカリ面白くなってしまって、ほんとは直ぐに帰らなきゃいけなかったんですけどね、じっと見とれてしまいました。ちゃんと骨まで透けてみえるんですから。しかも動いちゃう。動くレントゲン写真なんて、ちょっと聞いたことがありませんねえ…。

詰らないことなんですけどね、こういう風に工夫をしてみるってのは、案外と面白いものですよ。誰かヒマな人がいたら、一度試してね、レントゲン水槽……。


ほらね、まるでレントゲン写真でしょ?
ちゃんと骨まで透けてます。ふふふ。

(00.07.04)

採集帰りの路上考現学

今年(2000年)の春、A君とM半島へチャガラを採りに行った帰り道のことでした。
「悪いんだけどサあ、ちょっと帰りにNに寄ってくれないかなあ?」
獲物を載せて助手席に座るなり、そうA君が切り出してきました。Nというのは、K市にある歴史もそこそこのペットショップでありますが、そこの「ウリ」は何と言っても「近海物」にありまして、ご想像のとおり漁師さんとの繋がりがあって、普段あまり目にすることのない生物を取扱うのが多いことでは、マニアの間ではチョットは知られた存在です。実はその日も珍しい魚が入荷したという情報があり、A君、帰りのついでにこれを写真に撮ろうと思ったらしいのです。

たのまれた私はというと、別に急いで帰らなきゃならない理由があるわけでもなし、
(まだお昼過ぎたばかりだし、偶には「下」を通って帰るのもいいかな?)
帰り道に要する高速料金のことを考えると、嫌な誘いではないですからね。

さて車を走らせてNに向いましたところ、私は途中でどうも道を間違えてしまったことに気が付きました。勝手知ったる裏道を…のハズが、何かの勘違いで知らない横道に入ってしまったのです。しかも簡単に抜けられると思っていたのが、どんどんと分からない場所に入ってしまうじゃありませんか!更にマズイことに大渋滞に巻き込まれて、チットも先に進みません。あまりの八方塞がりぶりに、二人とも無口になってきて、
(だいたい君が寄り道しようだなんて言ったから…)
と私…。
(横道入ったのはオマエだろ…)
とA君…。
お互いどんな気持ちでいるかは分かるのでした。

と、やっとのことで車の列が動き出し、見覚えのある景色にホッとして胸をなで下した時でした。前方の歩道橋に書いてある町名を見て、私は思わず息を呑み込んでしまいました。だってそこには、
「K区 泥亀町」
って書いてあって、その「どろかめ」という何とも日常ばなれな読み方(違う読みじゃないよね)がタマラナク不思議であったからなのです。

私にそう言われて、初めて気が付いたA君も、今までの不機嫌さはどこかに吹き飛んでしまったようで、
「う〜ん!俺はこんな地名があるなんて知らなかったぞ〜。」
と、どうリアクションをとって良いのか分からない様子。結局我々は、
「まあ『でばがめ』でなくて良かった…」
という結論に落ち着いて、さっきまでの無口はどこへやら、しばらくの間は話題に欠くことなくYの街を走ったのでした。

さてそれから30分後。再び渋滞に巻き込まれた私達は、またもや無口な状態に陥ってしまいました。目指すNまではまだまだ時間がかかりそう。いくら急ぐ道ではないにしろ、狭い車の中に中年のオジサン同士で長時間いるのはやっぱりつらいものですね。黙り込んでしまうのは自然の成り行きでしょう。ああ、たまにはキレイなおね〜ちゃんと採集に行きたいな…。行く人、いるわけないか…?

と、信号待ちをしているときでした。今度はA君が必死に笑いを噛み殺しながら話しかけてきました。
「お、おい?あ、あれ、君だったら何て読む?く、く、くっ…」
言われた先を見るというと、空き地に立てられた看板には、
『出め金駐車場』
の表記…。
「え、どれ?ああ、あれ?で・め・き・ん…、え、え、え、え、え〜!?でめきんちゅうしゃじょう?」

ほんの一瞬の沈黙の後、車の中には大きな笑い声が響きわたりました。なんてことなんでしょう!今度は「出め金」です。冷静に考えれば、どちらもレッキとした固有名詞なのですが、あまりにもユニークで強烈すぎます。しかし、いいなあ、そういうのって…。

私はNに着いてからも、そのことばかりが不思議やら可笑しいやらで、Nの薄暗い通路を過ぎた先の小分けにされた水槽にいる巨大なミズヒキガニや、黄金色に輝くマツカサウオ、バルタン星人のようなセミエビなどの珍しい生き物に心を奪われることはありませんでした。

そして獲物のチャガラ君も、この日ばかりは話題の中心になることなく連れて帰られたというワケで、春の海の主役も、突然に現われた亀と出め金には勝てなかった…ということなのでありましょうね。

さてさてsyunさんとA君の「路上考現学」の巻、お粗末様でした!

<後日譚-1->
その後しばらくが経った7月の某日のことでした。見慣れぬお名前の着信メールを開いてみましたところ、そこには大変に落ち着いた文面で、以下の主旨の説明が書いてありました。
「正しい読み方は『でいき』です。江戸時代の新田開発の為、その出資をした庄屋さんの号を当て『泥亀新田』という地名にしたのがその始まりです・・・。」
ご指摘をくださった名古屋のKさん、有難う御座いました。m(_ _)m。

(00.07.13)


<後日譚-2->
名古屋のKさんからのご指摘を頂いてからしばらく経った9月の某日、たまたまその方面に出掛けた私はしっかりと「でめきんちゅうしゃじょう」の写真を撮ってまいりました。ハイどうぞ。syunサン、ウソツカナイ。ハオ。



私はウソはつかないぞ。ちゃんと「でめきんちゅうしゃじょう」って書いてある!

無断駐車を咎めるよりも、
「正しく読んでくれない方は、罰金を申し受けます」とかにした方がよっぽど面白いと思うんだけどね。わはは!

でも、「め」がひらがなであるところに落とし穴がありそうな気がして、なんか不安だなあ…。

(00.09.25)

「おかあさん」もチョウチョがお好き

2000年の7月某日。
午前3時30分にセットした目覚ましが鳴ると、家族の皆を起こさないように寝床から這い出した私は、静かにお湯を沸かしてコーヒーを淹れ、真っ暗な部屋の中でパソコンのディスプレイの明かりをたよりに二口三口とコレをすすったのでした。
(むにゃにゃにゃにゃ、眠い・・・)
が、30分後。すでに私は車中の人。この時私は心既にそこにはなく、磯に飛んでしまっていたのでありました。へへ。

さていつものルートで移動を続けた私達でしたが、途中の漁港でアケボノチョウチョウウオやトゲチョウチョウウオを難なくgetし(ほんとかね)、10時くらいにはスッカリご機嫌になってしまって、
「もう帰っちゃおうか?」
などと余裕の発言さえ出てくる有様だったのですが、そこはそれ、
「ここまで来たらMだよね。」
と、学生の頃から通いなれた磯へと向かったのでした。

さて無料の駐車場に車を停めて、その下に広がる磯で遊んでおりましたところ、私は水深1mくらいの水路状の入り江に屯するメジナの稚魚群の中に、タッタ1尾だけ黄色い魚がいることに気が付きました。それは「まっきっき」のモンツキハギ幼魚でした。

これは放ってはおけません。そうしょっちゅう採れる魚ではありませんし、去年の1999年は見ただけで逃してますからね。私は雪辱を果たさなければならないのです。

そこで私は水面に浮かんだまま両手を大きく広げ、さらに身体全体で彼の退路を断ち、徐々に浅瀬へと追い詰めて行くことにしました。すると向うもコチラに気がついて、ササッと岩陰に身を隠しました。が、私がズイと進むと、再び姿を現して少し離れた方へと移動を始めました。私はこの時点で「勝利」を確信しました。彼が進んだのは浅瀬の方であったからです。あとは「詰め」だけです。とにかくすばしこいですからね。油断は禁物です。ほんの少しの隙間があったら、カウンター逃法でやられてしまいます。

でもこの日はとても優位に事が運び、結局彼は浅瀬に乗り上げてしまい、私達は手づかみでこの子を捕まえることができたのでした。

生簀に入れた眩しいほどに黄色い魚を見つめながら、
「もうこれでご馳走様にしようよ。あとは向うの磯でちょっとだけ遊ぼ。」
私がそう言って「河岸」を変えようと歩みを始めたときでした。少し離れた場所で魚採りをしていた「おかあさん」(つまり私達よりもズッと年上の女の人)が傍に寄って来て、
「あの、何採ってるのですか?」
と尋ねてきました。

私が手に下げた生簀やバケツの中のチョウチョウウオ、それからモンツキハギなどを見せて差し上げると、
「え、え、え!こんな綺麗なのがいるんですか?」
「ど、どこにいるの?」
「深く潜るんでしょう?」
と質問の連続です。私達がひととおり、
「よく探せばすぐに見つけることができるし、捕まえるのだって、そんなに難しくはないのですよ。」
と説明をしてあげても、
(どうも信じがたい!)
という様子です。

と足元近くにあった一畳ほどのプールに、ナミチョウがチョロチョロと見え隠れしているのを発見したA君、「おかあさん」にそれを告げ、網を構えるように言いました。
「いいですか?網は動かさずに。」
それを見ていた私もモチロン加勢に入りました。そしてA君の一押しでナミチョウ君は「おかあさん」の構える網の中。その思わぬ成行に「おかあさん」の感嘆の声・・・。
「あ、あ、あら、イヤだ。と、採れちゃったよゥ!アレ、どうしましょ。」
そして最後の一言…。
「あら、うれしい…。お、お兄さんたち、ありがとね!」

「お兄さん」と呼ばれた私達。ふとA君を見るというと、ああ、ふだんはそんなに気が付かなかったんだけど、随分と白髪が多くなっちゃって…。そして私ときたら、立ち上がったはずみにヨロとよろけちゃったりして…。

(どこが「お兄さん」なんだろうね?)
お互い目を細くしたのは、強烈に照りつける太陽の光のせいばかりではないようでした。
そして私は、身をよじらんばかりに喜ぶ「おかあさん」の姿を見ながら思ったのです。
(チョウチョを好きなのは、お嬢ちゃんだけではなかったのか!)

(00.07.16)

高いか安いか 一時期のこと、それはそれなりに理由があったことなのですが、shop通いに狂っていた時期がありまして、土日は必ず、ひどいときには1日に2度も行っちゃったりする有様。で、そのつど、手にポリ袋を下げて帰るワケで、結構お金なんぞも使っていたのでしょうねえ。

では最近はどうかというと、コレがもうほとんど行かない。行くときは、どうしても買わなきゃならない物があるときだけ。頻度から言ったら、断然ホームセンターの方が多くなっちゃった。shopに行くのは、人工海水とか冷凍飼料、リーフ・タンクの添加剤がなくなった時くらいなもんです。

あんまり行かないもんだから、お店の人も、もう顔なんぞ憶えてくれてないでしょう。通う割には安い魚しか買わなかったスからね。
(ケチなオヤジ!)
お店の人はそういうイメージで私のことを憶えててくれたと思います。

さて、それほどまでであった私が、何でshopに行かなくなっちゃったかというと、それはやっぱり(私にとっては)海の方が断然に面白いからでありまして、コレはshopがいくら頑張って、ちょっとやそっと、キレイで可愛い魚を並べたって、敵うワケがありませんやね。

全く不思議なもので、どういうワケか海に行くと、採れなくたってオモシロイ。いる魚がいつもの魚であってもオモシロイ。加えて、一緒に行くメンバーが見慣れた古びた顔であっても、はたまた食べる遅い御昼がいつものアンパンであってもオモシロいんでありますな。なんでだろ?

ところがデスね。楽しい想い出を胸に、意気揚揚とバケツを下げて帰ってまいりますというと、その中味を見た家内というのが、決まって次のようにノタマイます。
「あれ?これ、アケボノとトゲ?
(この辺はさすがに採集家の妻ですな)
こないだも採って来たじゃん?でもタッタこんだけ?お店で買った方が安いんじゃないの?いやいや、ガソリン代のが絶対高い!」

そこで私はどのように返すかというと、
「ふふん、チミ。採集というものはネ。量ではないのだよ。プロセスと質なのサ。高い安いを比べたら、ソリャshopへ行った方が安いに違いないサ。交通費だってかかるし、海から上がったあとにラーメンくらいは食べますよ。でも高いとか安いとかの問題じゃないんだ。この満足感というのはダネ、海に行ったときにしか味わえないものなのダヨ・・・。」

もちろんそれは、晩御飯の支度をしている家内の背中に向って、心の中で呟くだけなのですがね。


来週も行くか?!

(00.07.30)

キスゴム大嫌い

何ヶ月か前には「ナマコ・ミンチ事件」で崩壊寸前に陥いった我がリーフ・タンクですが、最近はスッカリと安定したしまして、もうほとんど手入れをしておりません。やってるのは、毎日のCa滴下とガラス面のコケ採り、それと1週間に一度添加剤を入れるくらいかな?

中に入れてる魚にも、ほとんど餌をあげてません。あげてないんだけど、皆元気。魚水槽ではウマクいったタメシのない、ベントス食性のハゼ君たちも丸々と太ってござるのでした。

この水槽、私は4台のパワーヘッドで水流をランダムに起こしています。このうち3台を水面近くに配置しているのですが、これは自分なりの、
(上からの眺めに変化をもたらしてやろう!)
という目論みによるものでして、実際に水流が起きてみますと、表層を滑るようにして波が移動して行く様なんてのは、これが実にいい雰囲気なんですね。うーん、自己陶酔満足型。以前にもご紹介のように、やっぱりリーフタンクは上から見るのが一番なんですなあ・・・。

さて残る1台のパワーヘッドですが、これは中層にセットしてあります。岩組みの関係にもよるのですが、止水部分をなくす目的で、あとから追加したものです。私はこの1台を4個のキスゴムでガラス面に固定しておりました。

最近のある日のことでした。

仕事から帰ってくると、この水槽の前で一服をするのが私の習慣です。その日も重いカバンを床に下すと、大きなため息とともに、ドッカとばかりに座り、タバコに火を点け、目を水槽に向けたのでした。と、妙な雰囲気、というか異常な光景・・・。水槽の中に雪が降っているではありませんか!
(ありゃりゃのりゃ!Caを入れ過ぎたか?)
私はとっさにそう思いました。が、よく考えて見ると、日中にCaを滴下するなんてことはありません。
(じゃ、またナマコ・ミンチか?)
しかし、1尾しかいないナマコは私の目の前に厳然と、そして実にダラシのない格好で横たわっています。
(じゃ、なんなのか?)

すると、水槽の向こう側の方で、ゴツンゴツンという音・・・。目をやりますと、パワーヘッドがダンスを踊っています。そう、つまり、しっかり固定しておいたハズのキスゴムが外れ、自ら起こす水流で一人暴れまくっていたのでした。ゴツンという音は、本体がガラス面に当たる音だったのですね・・・。見ればパウダーの底砂は大きくえぐれ、底面までも見えるほど。これじゃ雪が降ったように見えるのも当たり前です。

このキスゴムというヤツ、どうしてこうもアテに出来ないんでしょうか?外れるときはいとも簡単に外れるクセして、取ろうとすると今度は不思議なくらいに取れません。

私は再び大きくため息をつくと、頂に砂を被った珊瑚達の手当をしてあげながら、次のように呟いたのでした。

「キスゴムをアテにするなよ、埼玉キューバンボーイ・・・ウゥ!♪」。

(00.08.03)

ゲンロクダイの想い出

その昔、私が高校生の頃のお話です。

今でこそ大変に立派な雑誌に成長してしまったFM誌ですが、私が買って読んでいた頃などは、全体の厚さは今の半分以下、使っている紙だって少し上等なワラ半紙(って言っても今の時代に通用するかしら?)のようなものでありまして、写真ときた日にゃ記憶の中は白黒写真しかゴザイマセン。感覚的な表現になって申し訳ありませんが、憶えている限りのイメージでは、新聞を束ねたヤツにカラーの表紙が付いてるようなものでありましたね。

しかし当時一般の人が手にする専門誌といったら、これくらいしかなかった(と思う)ことに加え、既に多くの場所で述べておりますように「採集」の記事が掲載される機会があったりしまして、私はこのFM誌の発売日を大変に楽しみにしていたというのも事実なのでした。

誤解のないように付け加えておきますが、体裁が悪いとかいうことではありませんので念の為。巻頭にはちゃんと海水魚の写真が掲載されることもありましたし、中には、
(おおお!)
と思う魚の写真が載ることもありましたからね。

さて、何故にそんなこと、つまり巻頭に海水魚の写真があったのを憶えているかと申しますと、これにはある理由があるからでして、今日はその辺のところをお話します。

それはある号に掲載された1枚の「ゲンロクダイ」の写真が理由なのでしたが、和製チェルモンを思わせる、地味ながらも気品ある雰囲気もさることながら、その写真の下部に記された飼育者(お名前はすっかり忘れてしまいました)に関するコメントに、異様に興味をソソられたからなのです。というのも、その方の住所というのが「O」という瀬戸内に面した県であったからです。

実はこの「O」というのが私の故郷なのでして、私はその写真になぜかしら親近感を感じ、さらには次のように思ってしまったのでありました。
(そうか、ゲンロクダイは瀬戸内海にいたのか!)

そして私は、それらの写真やコメントから、自分の思いつきが間違いでないことを必死になって読み取ろうとしたのです。モチロンこれにも理由があったからでして、
(ようし、今度「Oのおばあちゃん」チに行く時は、瀬戸内海で採集しよう!)
こう思わないワケがありませんやね。

しかしですね、まったく恥かしいことですが、網を持って新幹線や在来線(確か新幹線は大阪までだった…)で「O」まで出かけ、おばあちゃんの家から向ったS島や、幼馴染のガールフレンドと出かけた、もっともっと東のAの海岸には、ゲンロクダイはもとより死滅回遊魚の姿なんかチットモ見えないのでして、私は大いにガッカリして帰って来るしかなかったんですがねえ…。

真上から太陽が照りつける夏。何の脈絡もなく、網を担いで「Oのおばあちゃん」の家へ遊びに行った日を想い出す私なのですが、それと同時に、
(いったいあの「ゲンロクダイ」は採集物だったのだろうか?)
未だに解決していないこの疑問もセットになって甦って来てしまいまして、なんだかホロ苦いような想い出に浸ってしまうのでした。

標題から想像して、私がゲンロクダイを採ったことがあると思った人、期待をさせてスミマセン。

ゲンロクダイが瀬戸内にいるかいないか?という問題は別として、今ほど海水魚飼育が浸透してなかった時代に、こんな魚が載ってたというのが、ど〜も不思議でならない。採ったか?網にかかったか?・・・。それとも売ってた?ん〜〜、わかんねえ。なんでだろ?謎だ。

(00.08.09)