2004年8月19日から8月27日までガラパゴス諸島を周遊する機会があった。合間に、磯での観察2日、シュノーケル観察合計4回を実現できたので、ガラパゴスの磯について報告する。なお、水中写真は始めての経験だったため、しばしば操作をあやまり、ピントのあった映像をほとんど撮れなかった。しかし参考程度に掲載しておく。


はじめに・・・  ガラパゴス諸島は有名な世界遺産の指定区域であり、環境保全のため採集などは行えない。釣りも漁船に便乗しないかぎり許可されないので、観察だけで満足しなければならない。しかし、観察だけでもまことにすばらしい体験を味わえる固有種の宝庫、地球の宝である。


場所ならびにアクセス・・・  南米エクアドルの1000km沖に浮かぶ、大小20以上の島からなる。これは小笠原が東京の南1000kmに位置するのと対応する距離関係である。赤道直下にあるにもかかわらず、南からペルー海流とフンボルト海流の2寒流が来ており、水温は低い。しかし北へ行くほどパナマ海流やクロムウェル海流などの暖流の影響を受け、あたたかくなる。乾季(6−11月)は水温23度になり、雨季(12−7月)には18度を下回る。生息する生物から見ると、海域は3域に分けられる。

 
 諸島の北はずれに位置するダーウィン島やウルフ島では、熱帯色が濃い。なんとトゲチョウ
    やチョウハン、メガネクロハギ、シマハギ、クロハコフグ、クロモンガラなど太平洋の熱帯魚種
    がいる。しかしアクセスが悪く、行きにくい。それより南にさがったピンタ島やメルチェナ島は
    ガラパゴスらしい固有性ある海域となる。この島々はアクセスよく手ごろなクルーズ船もでて
    いる。

 
 諸島西部のフェルナンディナ島、イザベラ島、サンティアゴ島、バルトロメ島などは冷たく荒い
    海流に洗われ、また火山岩むき出しの若い島からなっている。ガラパゴスの有名なタキベラ
    属である三色鯉のようなハーレクィン・ラスも多い。パッサー(キング・エンゼル)もガラパゴス
    ペンギンやウミイグアナとともに泳いでいる。

 
 諸島の中央ならびに東部は、ジェット機が大陸から発着する玄関サンタクルス島、サンクリ
    ストバル島、セイモア島、プラサ島、エスパニョラ島、フロレアナ島などがあり、産業と観光の
    中心となっている。


生息魚類の特徴・・・    ガラパゴス海域にはおよそ500種の魚類が生息する。うち南の寒流に乗ってくる冷水系が7パーセント、パナマ海流に運ばれてくるアメリカ西岸の温帯魚系が約50パーセント、また南太平洋の熱帯系魚類が14パーセントを占める。しかし最大の特徴は固有種が多いことで、生息する魚数の17パーセント、約86種が、ここにしかいない魚たちである。そのため、日本から行くと、かならず初見参の魚種に出会える。それが最大の魅力となっている。


磯観察・・・  今回観察できたのは、4島の磯だった。以下,島別に案内する。



@サンタクルス島
 まずホテルがあって人も住み、街まであるサンタクルス島から。ここは緑豊かで、山岳部にゾウガメ(写真@)も生息している。 ここでは住民の漁師にたのみ、ホテル前のビーチで撮影用に小魚をすくってもらうことができた。ビーチは白砂におおわれた美しい浜(写真A)で、わずかな岩場とマングローブ帯がある。水深は干潮時1m。流れがあり、水温の低い雨季に行ったため、水温は18度で、思ったより寒 い。

 ここでもっとも目についたのは、マーブルド・ゴビーEloetrica cableae(写真B)と呼ばれる地味な固有種ハゼ、サバフグに似た縞をもつブルズアイ・パファーSphoeroides annulatus(写真C)、また目のするどいガラパゴス・パファー Sphoeroidesangusticeps(写真D)も少ないが、みつかる。そしてどこか人間めいた表情のスズメダイ、イエローテイル・ダムゼルフィッシュStegastes arcifrons(写真E)が印象的だった。このスズメダイの幼魚はブルー(写真F)に光ってかわいい。驚いたのは、スズメダイ科のパナマ・サージェント・メイヤーAbudefduf troschelii だった。思わず、「あ、オヤビッチャがいる!!」と叫んでしまったほど、よく似ている。 スズメダイ類ではマングローブの根っこに住み着く斜め縞のめずらしい種もみつけた。しかし、図鑑に該当するものが発見できず、同定できなかった。

  もうい ちど驚いたのは、沖縄でよく見るヒブダイの成魚カップルが、地元でグリエーターと呼んでいるシュノーケルポイントにいたこと。これは、ほんとにヒブダイだった。ということは、ガラパゴスにサンゴもあるということだ。

 ガラパゴスへ来たらぜひ見たかったハーレクィン・ラスを探したが、西の島々へ行かないとダメだと教えられた。深さは3−4mでも見られるという。かわりに、イースタン・パシッフィック・バタフライフィッシュ(写真G、H)Chaetodon humeralisの幼魚が群れているのを発見。臆病だが すがすがしい白さに感動。浅場にたくさんいることを知った。チョウチョウウオ類では、バーバー フィッシュJohnrandallia nigrirostrisも多いはずだが、みかけなかった。

 もう一種見たかったのはハゼの一種、カタリナ・ゴビーそっくりの固有種ブルーバンデッド・ゴビーLythrypnus gilbertiだったが、これもどこへ行ってもみつからない。諸島のどこにもいると聞いたのだが、どうやら深場に生息するらしい。ホテル前のビーチでうれしく観察したのは、青い宝石のように輝くジャイアント・ダムゼルフィッシュMicrospathodon dorsali(写真I)の幼魚だった。ガラパゴスのコバルトスズメといった感じだ。


@ゾウガメ

Aサンタクルスの海

Bマーブルド・ゴビー

Cブルズアイ・パファー

Dガラパゴス・パファー

Eイエローテイル・D

Fイエローテイル幼魚

GE/P バタフライ

HE/P バタフライ

IGダムセル


Aバルトロメ島

 いよいよ人の住まないほんとうの島へ探険である。まるでカメが首をのばしたような大岩があるこの島(写真J)は、数少ない陸地からのエントリーが許されるビーチがある。アシカの群れを避けるようにシュノーケルしてみた。水は冷たく、流れは速く、しかもウミイグアナのえさとなる海藻(ノリのようなもの)がちぎれて漂っている。泳いでいると大きなアシカが近づいてきて、怖かった。

 海底は岩場になっていて、海藻の間に見たこともない色合いのスズメダイを発見した。茶色い胸鰭に、鮮やかな黄色の縁取りをもったガラパゴス・リングテイル・ダムゼルフィッシュ Stegastesbeebei (写真K)だ。固有種ではないが、黄色い縁取りのある黒い胸鰭を手のように動かす様がおもしろい。

 沖縄でいえば、コガシラベラの幼魚みたいな色合いのコルテス・レインボー・ラスThalassoma lucasanumの子が群れている。メッキシカン・ホッグフィッシュBodianus diplotaeniaは稚魚から成魚までそろって泳いでいる。稚魚は黄色があざやかだ。

J船上よりバルトロメ島を望む

Kガラパゴス・リングタイル・ダムゼル


Bフェルナンディナ島
 次は西部海域のフェルナンディナ島。ますます水温が下がり、フィンがないと流されるほどの海流だ。ここはボートからしか水にはいれない。磯は爬虫類と鳥類のサンクチャリになっている。アシカも縄張りをもっているので、人間はビーチを使わせてもらえない。

 このものすごい流れのなかを泳いでいたら、ガラパゴスに生息する唯一のキンチャクダイ類である豪華なパッサー(キング・エンゼル)Holacanthus passer(写真L)にとうとう出会えた。岩の下にいて、外へ出てこない。必死に水中撮影するも、体が流れに翻弄され、写真にならない。岩場にいるウミイグアナ(写真M)にも鼻汁をひっかけられた!この日はパッサーも一匹しかみつからなかった。水中ではウミガメが多数いて、度肝を抜かれた。
Lキングパッサーに出会えた!岩の下、強い流れという悪条件のためシャッター・チャンスをつかめない M陸の上にいるウミイグアナにも鼻汁を引っかけられた!



Cサンタフェ島
  ふたたび中央部の島に帰り、サンタフェ島に上陸。溶岩むき出しの西と違い、サボテン(写真N)がたくさん生えている。だから、これを食糧とするリクイグアナ(写真O)がいる。

 島めぐりの冒険も最後に近づいたのに、まだ水中で食事するウミイグアナを目撃していない。そこで、あえて寒い夕方5−6時を選び、最後のシュノーケルをこころみた。すると幸せなことに水中で海藻を食べるウミイグアナに遭遇できた。しかもたてつづけに2個体だ。かれらは3mほどの浅い岩場にしがみつき、岩に生えた緑の藻をガシガシ食べている(写真P)。その岩場周辺は魚影が濃く、オレンジ色のネンブツダイ、ブラックティップ・カージナルフィッシュApogon atradorsatusが大群をつくっていた。それを特徴ある模様をもつカエルウオ、パナマ・ファングド・ブレニーOphioblennius steindachneriが見上げている。クロスジハギによく似たレザー・サージョンフィッシュPrionurus laticlavius(写真Q)も、ときおり大きな個体の群れがコケを舐めながら通り過ぎていく。その群れを追って岩場の奥へ行ったら、目の前にとんでもない光景があらわれた。ごろごろと詰まれた大岩のあいだを、大小のパッサー(写真R,S)が乱舞している。かるく10匹以上はいる!! いや、もう、うじゃうじゃいるのだ。沖縄でもサザナミヤッコの大群など見られないというのに、ここにはそれが実在する。とんでもないことだった。あわてて写真を撮ろうとしたが、設定がおかしくなったらしくピントが合わない!!30分頑張ったが、暗くなったので断念した。ガラパゴスの海はほんとうにすごかった。なお、ここらのパッサーはシュモクザメのクリーニングをしたり、野生のくせにボートによってきてえさをねだったりするのである。


Nサボテン

Oリクイグアナ


Pウミイグアナ食事中

Qレザー・サージョン


R
パッサー

Sパッサー



終わりに・・・  ガラパゴス諸島へは、いまや日本からもツアーがでるほどポピュラーな観光地となった。にもかかわらず、ここで体験する生物とのふれあいに大きな驚きを禁じえない。なぜなら、魚も爬虫類も鳥類すらも、圧倒的に数が多く、人をまったく恐れないからである。これは、かつて地球にあった楽園の記憶を思い出させる。いちどは出かけたい野生の王国である。われわれ人間が地球の主役ではないことを、アシカに占領されたビーチで思い知るだけでも、出かける価値はある。